第一印象。


「でっかいなぁ」


 それだけだった。
 本当に。


「ちょ、おい! お前それマジで言ってんのか!?」


「有り得ないだろ! ちゃんと目ェついてんのかこら!!」


 俺の友達は、そうじゃなかったみたいだけど。







***


 夏休み迫る七月上旬、突然の編入生が来た。編入生自体はこの学園じゃ珍しくないんだけど、何でか皆が騒いでた。
 容姿がずば抜けて良いとか、そういうわけじゃなかったみたいだけど。何でも、入学時に受けたテストを好成績で通過したにも関わらず、何故か一番頭の悪い奴らがいるこのFクラスを希望してきたらしい。
 面白い話だよな。頭のいい人って何考えてるのかさっぱり。

 まぁ、さっきも言ったとおりずば抜けて容姿がいいわけでもなかったんだけど、悪くもなかったわけでさ。少なくとも、廊下を歩けば二、三人は必ず立ち止まって振り返る程度。
 …あれ、ちょっと基準がおかしいのかもしれない。でも、この学園じゃそれくらいは結構あるんだよ。皆のアイドル、生徒会長さんなんかが来たらもの凄いことになるし。

 そんな編入生くんは、晴れて俺と同じクラス。
 ガラの悪い奴らとか、喧嘩っ早い奴らとか、族に入ってる奴らとかもいるクラスだけど、何もないときは何にもない、平和なクラスだ。

 編入生くんは、HRの挨拶の時から何だか少し面倒臭そうな顔を隠そうともせずにそこにいた。挨拶もけだるそうだったけど、その声はよく通っていて何だか安心感があった。
 放課になった途端、皆に囲まれた彼だったけどゆっくりと質問に答える姿はやっぱり面倒臭そう。


 そんな編入生くんは芥菜京一というらしい。
 お友達は、本だけで充分。騒がしいのは苦手で、会話は面倒で仕方ない。
 眼鏡がないと何も見えなくて、微かに茶色がかった髪は地毛らしい。

 それから、彼は俺の目から見たら巨人だ。

 俺がチビだからそう思うだけかもしれないけど。


 編入から数日もすれば皆も京一が周りで騒がれる事が嫌いな事を流石に理解したみたいで、皆遠巻きに眺めるか、さりげなくスキンシップをはかろうと必死だ。
 俺の友人の笹木と倉森なんかもその一人だ。


「好きなのか?」


 昼放課、喧騒に包まれた食堂で問うと二人は大袈裟に頷いて見せた。


「めっちゃ格好良くね? あの澄ました顔にも、どこか儚さがあってさ」


「ってか眼鏡がいい。カチ割ってひんひん言わせたい」


 案外まともな笹木と変態な倉森。
 何で俺こいつらと友達はじめちゃったんだろ、とか一瞬思ったのは秘密だ。カレーを嚥下しながら視線をさ迷わせれば、食堂の隅に京一の姿があるのを見つけた。珍しい。彼は何時もお手製のお弁当を持ってきて、何処かで食べていたはずなのに。
 皆がちらちらとそんな京一を振り返って、同席したそうに囁く。勇気が出る人は誰も居ない、――ように見えた。

 一人。
 同じクラスの、外与大助が。

 彼に笑いかけた。

 二言、三言と言葉を交わし、京一が頷いたのを満足そうに見遣って、大助は、彼の前の席に腰掛けた。

 大助はクラスの中でも一目置かれた存在だった。
 不良とも分け隔てなく接し、所属しているバスケ部では既に中心的な存在となっていて、皆の人気者。
 そんな彼が京一に、ついに声をかけたのを、皆は黙って見た。唯一黙ってないのは…


「大助とはいえ、何かゆるせねぇえええ! 俺達が座りたいのを必死に我慢してたのにあいつ!」


「よし、今からシバきに行くぞ」


「おう」


「うわああああ待てよ馬鹿野郎! マジやめて!」


 ほんと、何で俺こいつらの友達やってんだろう。




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