「なぁなぁ、編入生とどこまで進んだんだ!?」
後日、教室に入るなり笹木達がそういって詰め寄ってきた。京一と昼を共にするようになってから恒例となっていたから、俺は無視を決め込んで自分の席についた。
後ろをついて来る笹木達は、余程暇らしい。
ふと、視界に入った京一の席。
そこは今日も空席のままだ。大助が間宮さんと付き合いはじめてから、京一は一度も教室に姿を現さない。飯を食べている時にさりげなく尋ねてみたら、どうやら図書館で面白いシリーズを発掘してしまったらしく、現在篭っているそうだ。
とは言え、毎日ちゃんと弁当は用意されているので一度部屋には帰っているようだが。
「それで、昨日のメニューは?」
「秘密」
「ケチ!」
ぶー、とか言って唇を突き出した彼に若干鳥肌がたつ。無視することにして、俺は思い出したように笹木に向き直った。
「なぁ、夏休み空いてる?」
「おぅ、二十四時間何時でも空いてるぜ」
「良かった。じゃあ一緒にどっか出かけようよ」
「は? おめー編入生はどうすんの。夏休み連れ回して自分だけしか見えないように調教とかしないの?」
「しねーよ!」
思わず鞄から取り出していた荷物の中にあった筆箱をぶん投げていた。びしっと微妙な音を立てて倉森の顔面にヒットし、知らず、ガッツポーズ。
こいつらは一体俺を何だと思っているのか。
床に突っ伏して泣きまねを始めた倉森に笹木が加担し「家の倉森ちゃまになんてことを!」なんて気持ち悪い口調でまくし立てる。寧ろお前らの頭の中が「何て事!」だよ。
ん? 自分でもよくわからない言い回しだな今の。
まぁいいか、と、再び、自然に、京一の席に視線を流して、
「…!」
俺は、自分の内側に黒い靄がかかるのを感じた。
京一の、空っぽの席を、じっと、切なげに見つめる奴が一人。
――大助だった。
何を、考えているんだ。
何でそんな目で京一の席を見る。
大助にはもう関係ないじゃないか。
間宮さんと仲良くしてろよ。
やめろ。
やめろ。
その時、大助の視線が動いて、俺を捉えた。何を思ったのか、戸惑いがちに視線をきょろきょろと逸らせて、それから思い切ったように俺に歩み寄ってきた。ぞわり、と嫌な予感がする。
「淳チャン、ちょっと、ええか…?」
良くない。
そう答えれば、良かったのだろうか。
しかし、後悔しても遅い。
俺は既に
「――良いよ」
と、返してしまっていた。
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bkm