真っ赤な愛を口移しで寄越して
not連載


昨日からハンガーに掛けてあった
モスグリーンのチェックワンピースに袖を通して姿見で確認。
異常なし。
鏡台に座ると慣れた手付きで温めていたコテで髪を巻く。
自慢の黒髪は艶やかにウェーブを描いた。
いつも左右でうまくシンメトリーにならなくて苛立つのだが、今日の髪は機嫌が良いらしい。


暫く聞こえていた勢いのある水音が止んだかと思うと、扉から腰にバスタオル一枚を巻いただけの男が出てきた。

「脱衣所に着替え持って行けって何度言ったらわかるのかしら」

「別に良いだろ」

「濡れた床掃除するのは誰?」

「ちゃんと身体拭いてから出た」

「髪から滴落ちてるっつーの。

早く服着てよ、風邪引いても知らないわよ」

「はいはい」

怠そうに頭をガシガシと掻いて寝室に向かう静雄。
また水滴が落ちた。

私は鏡台に向き直って
さて、と息を吐いた。

化粧を済ましてさっさと出掛けよう。
今日は2人で新羅とセルティの家にお呼ばれしてるんだから。




「なぁ」

「なーにー?」

「その…それさ、やめねぇ?」

「それ?…ってどれ?」

いつもの服に着替えた静雄は
化粧をする私を見つめながら言った。

あぁ、化粧をするなってことか。
と薄々気付いてはいたけど敢えて聞き返した。

男性はあまり化粧を好まないと聞いたことがある。

特に飾りっ気のない静雄はそうだと言えるだろう。
私も濃い化粧は肌を痛めつける気しかしなくて好きじゃないけど、
私の化粧は一般的に見てもナチュラルメイクの部類に入る。

女にとってある程度の化粧はマナーだ。
中高生あたりの色気付く頃になんとなく雑誌とかで覚えて社会人の今も毎日の癖だ。
昔は45分くらいかけていたが今は20分も超えなくなった。

そんなことは良いとして、
とにかく化粧をやめろという言葉はいくら愛しい恋人とて受け入れることは難しい。


化粧、と紡がれるであろう口に内心身構えていると、

「それ」

と、鏡台に転がる一本の黒い筒を指差した。



「グロス?」

「ああ」

「なんだ、私てっきり化粧そのものを否定するのかと思ったわ」

「化粧は別にいい。マスカラしてる時の顔エロいし」

「一言多い」

あれ誘ってんだろ?
と真顔で聞いてくるこの男は私をなんだと思ってるんだ。
化粧しながらセックス誘う女が何処にいる。

「で、なんでグロスが駄目なの?」

「なんか…食ってる感じがする」

「何を」

「赤いやつを」

「静雄はしないじゃない」

「キスする時」

「…じゃあキスしなかったらいいんじゃない?」

「はぁ!?手前ふざけてんのか!?」

あり得ない、とも言いたげな怒った表情を横目に私は唇に紅を引いた。


「…無視か」

どんどん苛立ちを増していっている様子の静雄。

私はグロスをやめる気なんてさらさら無い。
ましてキスしないなんで口にするだけで無理。我慢できない。
静雄はグロスが口に入るのが嫌。
でもグロスは口に含んでも害は無い。
特に静雄なんて絶対大丈夫。

なら話は簡単だ。


「じゃあこうしましょう」

ぱっと唇にグロスが馴染んだ事を確認すると、私はすかさず彼の唇に噛み付いた。



「たくさんキスして慣れればいいのよ」

塗ったばかりの真っ赤なグロスが静雄の口にぺっとりと付着した。
あは、間抜け面。




「…お前それよー…」

「そうよ、誘ってさしあげてるの。


貴方がシャワー浴びてる時に既に約束の時間から1時間遅れる事はセルティに連絡済みよ」



首に腕を絡めて顔を近づける。
私いまきっと凄いドヤ顔してると思う。

「用意周到な女」

「向こう見ずな男にはぴったりでしょう?」







あぁ、でもやっぱり2時間にすればよかったかしら。


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