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「金造ー、お客さん連れてきたでー」

スッと開けられた襖の向こうにチラリと金髪が見えた。
思わず私は柔造さんの背中に隠れた。

「(ほんとに来ちゃったーーー!)」

金造がこちらに向く気配は見えたが、声は聞こえない。

「お?樋口さん?」

隠れた私を不思議に思ってこちらを伺う柔造さん。

「茜…?」

金造の呼ぶ声に思わずびくっと肩が震えて、柔造さん越しに顔を出してへら、と笑った。

「久しぶりー…」












それから柔造さんは仕事残っとるから、と残して部屋を出て行った。
絶対嘘だと思うんだけど。
私と金造は向かい合うようにして座っている。

「えらい、かっこええな」

「え、何が?」

「祓魔師の制服、お前が着とるん初めて見た」

「あ、そっか…会うの2年ぶりだもんね」

二年振り。金造は相変わらず髪をピンで留めてるけど、少し髪が伸びた?外見そんなに変わってないように見えるけど、やっぱり雰囲気が落ち着いてるかも。

「いつから日本来とったん?」

「今年の春。塾の講師とは別件で仕事があって、潜入捜査だったの」

私、二十歳にもなって正十字の制服着てたんだからね というと、金造が今日初めて笑った。

「茜の制服か〜もっぺん拝みたいなあ」

「変装してたからほとんど私じゃないけどねー、廉造くんたちと一緒に訓練生してたのよ」

「は!?じゃあ廉造はお前の制服見たんか!あいつ死ね!」

「あっはは!なんでそうなるのよ!廉造くんと金造仲悪いの?」

「おん、あいつは…気に食わん」

「ふーん?」


あーあ、さっきまであんなに怒ってたのに一気に毒を抜かれた。悔しいなあ。

「あ、それでさ」

「ん?」

きっと向こうから言い出すのを待っていたらイライラしてしまいそうだったので、こちらから切り出す事にした。

「直接言いたいことって何だったの?」

「は!?」

「こないだ電話で言ってたじゃない。聞きたい」

「今か!?今ここでか!?」

「えっなに、ダメなの?」

さっきまで落ち着いてると思ってたのに一気に慌て出した金造は、やっぱり二年前とあんまり変わっていないかもしれない。

「えー…いや、ダメとかやないねんけど…あー…」

頭を抱えた金造を黙って見る。

言ってくれるまでこちらからは何も言わないでおこう。せかしたら逆効果な気がした。


しばらく「今かー」とか「まじかー」とかいう声が唸るように聞こえる。
今じゃなくても良いよ、なんて優しいこと言ってやらない。その分また期待に胸を膨らませてしまうから。


ずっと好きだった相手に直接会って言いたいことがある、なんて言われて、期待しない方がおかしいと思う。
それでもこの期待を容赦なく打ち砕くのが目の前の志摩金造という男。
だから早く現実に引き戻してもらいたかった。

それからバッと顔をあげた金造は、肩を回して力を抜いた。
なんだこの緊張の様は。

んんっと咳払いをしてから、真面目な顔になった。

「あの、お前、男とか出来たか?」

「…ううん?」

「す…す、好きな人とか」

「好きな人は…まぁいるけど」

「…あー、さよか!せやったらええねん!悪い、忘れてくれ!すまん!」

乾いたように笑う顔は辛いことを我慢してる顔だ。こんな質問をされて、返答して、こんな顔をされたら、金造が何考えてるかなんて誰にでもわかる。



馬鹿な人。
いや、この瞬間まで確信を持てなかった私も馬鹿か。


「金造は好きな人とか彼女とかいないの?」

答えはだいたい検討がついているけど、敢えて聞いてみる。

「俺はー…まあ、好きな女くらいは…おるけど」

金造は少し苦しそうに俯いた。

「じゃあお互いの恋、頑張らなくちゃね」

「いや、俺はええねん。お前は頑張れよ
お前やったらどんな男かて落とせるやろ」

「本当?嬉しいこと言ってくれるのね」

わざと少し優しい声にする。
さて、完全に落ち込んで失恋モードのこいつをどうしてやろうか。




私は少し金造の方に身を寄せて、耳元に顔を近づけた。



「ねえ金造。金造の恋、叶えてあげようか」


「…は」

やだ間抜け面。
くすっと笑って頬にキスをした。わざとリップ音を立てて。

みるみる赤くなる顔は実に愉快。
ああ、私はあれだ、サディストかもしれない。




「おま、おまおまおまおまえ、好きな男おるんちゃうかったんか!」

「いるわよ?でも金造じゃないなんて言ってない」

「お前、俺がお前んこと好きなん知っとったんか…?」

「さっき気づいた」

「…はあああああああ」

一気に肩を落として息を吐く金造。
私は隣に座ったままにこにこしている。


「さて、もう一度言います。こないだ電話で言ってた「できれば直接会って言いたいこと」、教えてくれない?」

「…あー…えーっと」

彼にもはや拒否権が存在しないことはさすがに理解できているらしい。




…高一ん時から、ずっと好きやった。
付き合ってくれ…ださい」

「はい、よく出来ました。
私でよかったら喜んで」


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