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『はぁ〜?別にいいだろそんなもん』

『何言ってんですか!わざわざ正十字騎士団の為に立派な旅館一つまるまる貸し切ってくださってるんですよ?

手土産くらい持って行くのが道理です、常識です』

もっと早く行くことが分かっていればそれなりのお店で見繕うことが出来たというのに。
東京駅内の土産物屋も充実しているから申し分は無いのだが。

病院の荷物をまとめてそのまま東京駅に来ていた私は、シュラさん達とは新幹線の中で合流することになっていた。


『ぷりぷりしてんじゃねーよ嬉しそうにしやがって』

『う、嬉しそうってなんですか』

にやにやした彼女の表情が目に浮かぶ。


『良かったじゃにゃあ〜い?キンゾーくんに会えるの楽しみなんだろ、丸分かりだっつーの』

『なっ…!』

ああ、この人に弱みを握られるとは迂闊だった。しばらくネタにされるなこれは。

『そんなことより、燐とシュラさんはちゃんと新幹線に間に合ってますよね?増援部隊隊長が遅刻なんて嫌ですよ』

『うっせえなー、もうホームに着いてるよ』

『なら良いですけど…』



それから一言二言交わしてから、私は京都の方々へのお土産購入を再開した。





新幹線に乗り込んだ時は既に候補生をはじめ大方の祓魔師は揃っているように見えた。
手早く予防接種を受けてシュラさんの元へ行く。






「へい ちゅうもーく
アタシは今回ムリヤリ増援部隊隊長押し付けられた
霧隠シュラです!ヨロシク!」

「隊長補佐の樋口茜です。よろしくお願いします」

シュラさんの脇に立つ補佐役は、いつもの定位置だ。

現状、及び不浄王の右目の説明が淡々と述べられる中、
私は当たり前のように燐の隣に座る出雲に、内心ほくそ笑んでいた。








「茜、寝れん」

シュラさんの意見はただのわがままだが、確かにこの騒がしさは他の祓魔師達に影響を及ぼしている。


候補生が騒いでいるのだ。察するに、また出雲と勝呂くんの売り言葉に買い言葉だろう。

仕方ない。私が一発入れておいてやるか。
復活したばかりの私を舐めるなよ!


スゥッと息を吸い、生徒達に一言だけ投げつけた。

「おだまり!!!!」


車両内の全員がシン、と静まり返ったが、その落差のお陰で生徒達がどれだけ騒がしかったかが分かったようだった。
候補生は皆が肩をすぼめる。

「そんなにお喋りしたいなら、いらっしゃい」



代表して燐の耳をつまんで、5号車に向かった。

全く関係のないしえみや宝くんも連れて来たのは連帯責任、という名目の罪悪感を伴って反省しなさい戦法だ。


バリヨンを乗せて正座する生徒達を見る。

「…なんでまた連帯責任なんですか?」

出雲が聞いてきた。

「シュラ先生の先程のお話をちゃんと聞いてましたか?

『皆 力を合わせてがんばってくれ』

それに言われたそばから周りの迷惑も考えずに言い合いをするなんて、褒められたことじゃありませんね?」


出雲はバツが悪そうに視線を落とした。勝呂も同じような表情だ。

「とにかく、京都までここで頭を冷やして落ち着いて、京都に着いてからはしっかりと「皆で力を合わせて」頑張れる準備をしてくださいね」

にこやかに告げると、廉造くんが言葉を発した。

「茜先生は体もう大丈夫なん?」

「ええ。あの程度の攻撃、本当は一日で治ってたんだから」


柄にもないウインクを残して、5号車を出ようとした。

「あ、そうだ」

そこで思い出してまた候補生の方に振り向く。

「次シュラさんを起こすようなことになったら、シュラさんがバリヨン程度で済ませてくれると思っちゃダメよ」







「まったくあの子達は…」

シュラさんの隣の席にポス、と座る。

「バリヨンか?」

「はい。お説教に留めても良かったんですけど、もう動き封じて無理矢理にでも落ち着いて生徒同士話させるのが良いかと」

「そうだな、んーーー取り敢えず京都まであたしは寝る」

「はい、おやすみなさい」

シュラさんが寝る体制に入ってから、私は携帯を開いた。

新着メール一件。

ーー駅まで迎え行きたかってんけどなあ


思わず口角が上がった。
何言ってんのよ、京都駅からは案内の人が待っていてバス移動なんだから迎えなんていらないのに。

返信を打ち込もうとした所で、寝たはずのシュラさんが声をかけてきた。

「んで、怪我の具合は?」

なんの前触れも無い言葉に少し驚いた。
そんなに心配させたのだろうか、それとも何か思惑でもあるのか。

「問題ないですよ。怪我したことが嘘みたいに」

「よし。じゃあお前はアタシの横でしっかり補佐に励めよ」

「なーんか、パシられろにしか聞こえないですけど」

「にゃっはっは!安心しな、あんたが彼氏といちゃつく時間もたっぷり作ってやるよ」

「かっ…彼氏じゃありません!!」

言いながら携帯を閉じた。
思わず大きくなった声に周りにいた祓魔師がこちらの様子を窺っている。
集まった視線に羞恥心がこみ上げる。

「〜〜〜っもう!


私は友人に会い行くために京都に行くんじゃないんです。シュラさんの補佐として、あくまで任務で京都に行くんです。そりゃ会えるのは嬉しいですけど、でもそんな風に余計なお心遣いをしていただかなくても結構です」

きちんとした言葉遣いで纏めると、シュラさんはちぇっ面白くねえの、と声を漏らした。

シュラさんにからかわれた時は、真面目に応対して体勢を立て直す事で言葉でまるめこむように対抗するのはいつもの私の手だ。




「つーかお前、本当にバリヨン置いて来たのか?うるせえぞあっちの車両」

「…おっかしいなー」

どちらからとも言わず席を立ち、生徒達の車両に向かった。

何やら燃えているにおいがする。
やらかしやがったな燐。




勝呂くんの頭上にバリヨンが落ちる、という所でシュラさんが助けた。
私は入り口付近に立ったままだ。

バリヨン一つに二人も必要なかったし、次やったらシュラさん、と生徒にも言ってあったから。



シュラさんが一喝した後、私達はまた座席に戻った。
生徒達は、当たり前だが随分気落ちした様子だった。5号車に生徒達を固めて反省させようとしたのは失敗だったかもしれない。

「生徒達と燐を一緒に置いたのは間違いだったんでしょうか?」

ぽつぽつと呟くように出した声はちゃんと隣のシュラさんには聞こえていた。


「この状況だけ見ると正解とは言えねえな」

「…ですよねえ」

「だが、お前が思ってる程、生徒達の絆は切れてないと思うぞ?」

「…そう、だといいな」


あくまで私は一教師として、普通に。
いつも通りに接するのが一番だ。



バスに乗り継ぐ合間、携帯を開いた。
画面は返信画面のままだ。

ーー京都に着いたよ。



早く会いたい、とは言えなかったけど。


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