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そこにはあと一歩のところでトドメをさせないシュラさんがいた。


「瀬々良、悪魔を凍らせて」

《分かった》

瀬々良は返事をすると、私を支えるように立っていた朱歌の背中から、近くの木の枝に飛び移った。
瞬間、身体の周りに冷気を帯びる。飛び移った枝はみるみる凍り、周りの葉も枯れ落ちた。

悪魔を見据えてからフゥ、と息を吐く。
白い気体がゆらりゆらりと悪魔に近づき、冷気に触れるや否やピキピキと音を立て、徐々に動きが止まった。

それに気づき、シュラさんがハッとこちらを振り返った。

「茜、お前…」

「すみません、シュラさん…」

「喋るな、どうせ肋骨イってんだろ」

シュラさんがこちらに近付こうとその場を歩いた時、凍らされたままだった悪魔が消えてしまった。

シュラさんはそれをしばらく見てフン、と鼻を鳴らした。

「…戻ろう」

「…はい」





拠点には雪男も戻っていた。

シュラさんと少し言い合ってから、朱歌に乗ったままの私を見て驚いた。

「茜さん!?血が…」

「茜は初っ端にアマイモンに吹っ飛ばされて肋骨何本かイってる、喋らせんな」

私を気遣う周りを牽制するように声を低くしたシュラさんを見ると、ますます情けなさが込み上げる。

「お恥ずかしい…限りです」

小さな声は隣に居たシュラさんだけに届いた。

「あたしや茜を早々に戦線離脱させることは向こうの最初の狙いだったんだろう。まんまとハマったのはペット相手に苦戦したあたしも一緒だよ」

言外に気にするな、と言われているようで私は何も言えなかった。

森から退避する皆について、朱歌が私の傷を気にしながらゆっくりと移動した。

振り返ると、青い炎が森を焼くように氾濫していた。

ああ、まるで…






「まるであの夜のようじゃないか」






先程考えて、すぐに思考から消したことをエンジェルが反復したことで、朱歌の背に身体を預けたまま薄れていた意識が一気に戻った。


「久しぶりに会えたというのにいやはや、随分怪我を負っているようだな茜」

睨む力もなく、じっと彼を見た。


「おはよう諸君!
オレはアーサー・オーギュスト・エンジェル
…ヴァチカン本部勤務の上一級祓魔師だ」

白い服の彼は高々に声をあげ、シュラさんは彼が聖騎士であることを補足した。

「そしてシュラ、オレはお前の直属の上司だ」

「フン」

気に食わないといった感情を隠すことなく鼻で一蹴したシュラさんを気に留める様子もなく、エンジェルは言葉を続けた。

「しかしシュラ、これはどういうことなんだ?

君と茜の任務は
故・藤本獅郎と日本支部長メフィスト・フェレスが共謀し、秘密裏にしているものを調査報告することじゃなかったか?」

「だって どーせアタシ達以外にも密偵送ってんでしょ〜?」

小指を耳に突っ込んで適当に切り返すシュラさん。私は何も言わない。
言葉を出そうとすると胸が(怪我的な意味で)痛むという理由も半分あるが。
全快の私ならもしかしたら噛み付きかねないところだろう。

「まぁな
だがもう一つ大事な任務があったはずだ

「もしそれが……




言いかけたところで、ポンッと目の前にメフィストと燐が現れた。燐は炎に呑まれて見るからに暴走している。

メフィストの社交辞令とも言うべき挨拶を無視してエンジェルは続けた。

「「もしそれが…サタンに纏わるものであると判断できた場合

即・排除を容認する」

…シュラ、この青い炎を噴く獣は
サタンに纏わるものであると思わないか?」

チッ…この白々しい話し方は味方だとしてもあまり好きじゃない。

言っている事は正しいし、騎士団側からすれば間違っているのは私達だ。

エンジェルは剣に手をかけた。シュラさんも身構える。応戦するんだ。

この場で剣を出して私も戦うということは出来ない。剣を呼び出す魔法円も胸に刻んでいるからかまえることくらいできるが、出したところでこの身体、戦うことはできまい。

考えているうちに、エンジェルは燐の首に手をかけていた。

私は何もできない。


すぐにシュラさんがその場からエンジェルを弾いて、そのまま攻撃を放つ。
当たり前のように躱したエンジェルは、そのままシュラさんの後ろをとった。
何かあればエンジェルを攻撃しようと、朱歌の羽根を少し握り、瀬々良も引き寄せる。

シュラさんとエンジェルは何か話しているが私のところまでは聞こえない。



しばらくして、エンジェルはシュラさんの首にかけていた剣をビッとメフィストと燐の方に向けた。

「三賢者からの命だ

今より日本支部長メフィスト・フェレスの懲戒尋問を行うと決まった
当然 そこのサタンの仔も証拠物件として連れて行く」

その発言に、メフィストは軽快に指を弾いて服装を変える。

「シュラ
お前も参考人として加わってもらうぞ

茜はオレに刃を向けないくらいにはオレに従事しているようだから候補生と共に居ろ、必要とあらば呼び出す」

「……」

従事してんじゃなくて怪我してんだっつーの!とも言えず、私はキッと睨んだ。効かないことくらい知っているが。

室内は大きいままの朱歌は入れない。壁づたいに歩こうと朱歌から降りるて小さくすると、本部の祓魔師が肩を貸してくれた。あー誰だっけな、この人。ブルギなんとか。

「ありがとう」

と言うと、私を背負い直すことで答えてくれたようだった。




右も左も肋骨折れてる。
今気づいたけど右腕も。
あー、こりゃ真っ直ぐ入院コースだなぁ。


なんて、ノー天気なことでも考えていない限り、私は後ろで聞こえたしえみの泣き声に同調してしまいそうだった。


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