「…では夕食が済んだところで、今から始める訓練内容を説明します」
「つまり肝だめし肝だめし〜」
横からちゃちゃをいれるシュラさんは完全に出来上がっている。
ああ…仮にも保護者の私が付いていながらこんなになるまでほったらかすなんてなんたる失態。
まだ開いておらずシュラさんの隣で出番を待つ缶ビールをさっさと除ける。
「シュラさん……勤務中です」
雪男が静かに窘める。
「つかその女18歳や言うてなかったか!?」
勝呂のツッコミはもっとも、彼女は最初の自己紹介でハートマークを付けて堂々とサバを読んでいたのだから。
私は無意識のため息とともに頭を抱えた。
「18歳?
何をバカなことを
この人は今年でにじゅうろ…」
「んにゃー手ェすべった〜」
「あっこら!シュラさん!」
言い切る前に空になった缶を雪男の頭に投げつけるシュラさん。思わず子供を叱りつけるような声を出した私に、にひひーといたずらっ子の笑みを向けてきた。
酔ってるくせにコントロールは一人前で、反省のはの字も見当たらないんだからまったく腹が立つ。
転がった缶を拾いつつ雪男を振り返ると、久々に素を表に出して、キレる寸前の彼がいた。
「おい…仕事をしろよ…」
思わずあらあら、と見てしまった私と、ぽかんとする塾生。
まぁいつもめちゃくちゃな双子の兄を相手に冷静に対処している(ように見せている)雪男だから、このように怒るというのが想像できないんだろう。
私としては気持ちを押し殺して真面目一辺倒な雪男の方が違和感を感じるのだが。
隣ではおこったおこった、と笑い飛ばすシュラさん。
この人は自覚が足りなさすぎるわ、と軽く頭をパシンとはたく。シュラさんはむー、とこちらを睨んだが目を合わせずにつん、とすましておいた。
一通り雪男が説明した後、雪男がこちらを見た。
「樋口先生から連絡事項をお願いします」
私はその場を立つ。
「はい。皆さんの審査、及び万が一に備えては、私樋口が上空から様子を見ています。ですが花火が上がらない限りは手助けは一切しませんから、あてにしないようにね。
明らかに訓練内容を逸した異常状態の場合は、失格合格以前に身の安全の為に花火を使うことをお勧めします。勿論個人の自由ですが」
その後、すぐに雪男のピストルの合図と共に訓練が開始した。
私はすぐに朱歌に乗って上空に向かう準備をした。
「茜お前、履き違えるなよ」
シュラさんは酔っている癖に頭は回っているらしい。さっきもこんな調子で燐を案じたのだろうな。
「向こうが攻撃してくるまでは手を出すな、でしょう?分かってます」
「訓練中で一人の燐が狙われるか、降魔剣を隠してるあたしと一緒にいるところを狙われるか、可能性は五分五分だ。前者だった場合にあたしが行くまでに塾生の安全を確保、時間を稼げってだけの話だからな」
「分かってますよ、あたし一人で悪魔二人を一気に潰せるなんてだいそれたこと、思ってませんから」
それだけ残して私は地上を離れた。
シュラさんはきっと分かってる。今夜燐の炎が公になるんだろう。良くも悪くもまっすぐな燐が、自分のせいで周りを巻き込むという事態を冷静に対処できるとは思えない。
もちろんその事態を避ける為に私達は力を尽くすけれど。
さっきまでカレーを食べて賑やかに過ごしていた場所が、なんだか殺伐として見えたのは、私の気持ちの問題だろうか。
楽しかった時間が終わろうとしている。
そして次の難題が今に始まろうとしている。
下では景気良く早々に青い炎が見えた気がしたけど…あぁ、どうなることやら。