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「茜がアイツをなんとかしたがるのも分かったよ」



思い出し笑いを含んだ表情で言い放つシュラさんは、尋問前に私に言ったとおり、吹っ切れたようだった。

「大監房でどんな話をしたのか、聞いても良いんですか?」

「んー全部言うの面倒臭いんだけどー……


…ふはっアイツ、聖騎士になるらしいぞ」

笑いに震えるような声でそう言ったシュラさんは、ちょっと嬉しそうだ。

「…燐なら言い出しかねないと感じさせるあたり、彼は面白いですね」

くす、と笑ったがそれは燐の大言壮語が陳腐なものに見えたのではなく、彼らしいと感じさせるものだったからだ。

「上に報告は保留で、もうちょい経過を見ることにした。でもあたしも茜も、もう変装の必要は無いよ。ここで居場所作らせる」

「了解です」




夜、メフィストの元へ向かいその旨を話していた。お菓子を散らかすシュラさんの後ろに立っている状態だ。

「…判りました

何にせよ日本支部としては貴女方のような優秀な祓魔師がいてくださるのは大変心強い」

「フン」

鼻で笑ったシュラさんは話は終わりだ、と告げて席を立った。












「シューラーさーん?お行儀が悪いです」

「固いこと言うなよ相棒の癖に〜」

「誰があなたの相棒ですか!」

次の日、久々に祓魔師の制服に身を通した。
ショートパンツに網タイツ、ほぼ裸の上にジャケットというラフスタイル極まりないシュラさんとは違い、私はタイトスカートに半袖のカッターシャツにボタンを一つ開けて、少し緩めのネクタイを閉めて上からジャケットを着ている。
あくまで私は標準、それも他の祓魔師と比べれば随分着崩した方なのだが、それでもシュラさんと並ぶとその対比は少しばかり面白い。

そんな中で教卓に足を組んで座りふんぞりかえる彼女は、行儀の悪さも相まって直立する私とは正反対に見える。
そんなシュラさんを見て目をハートにする廉造くんや、困惑した様子の他の塾生。
燐は遅刻のようだ。

「シュラさん、説明は私からしますか?」

「うんにゃ、あたしがやるよ」

そう言って私の手から資料を取った。

特に内容も把握していないのにまったく。

「…っつーわけで!
この度ヴァチカン本部から日本支部に移動してきました
霧隠シュラ18歳≠ナーす
はじめましてー

そんでこっちがー」

自分で自己紹介しろ、という目線を受ける。なに堂々とサバ読んでんだこのおばさんは。とは言えるはずもなく。

「…彼女の補佐役として同じく本部から移動してきました、上二級祓魔師の樋口茜です」

さっと頭を下げる。
どんな反応が来るかは覚悟していた。

春から夏にかけてずっと騙していたんだから幻滅されるのは当たり前。そんな私がこうして表に、教壇に立って、良いものなのか。
生徒に良い影響を与えるとは思えないし、というかまず受け入れられるかどうか。

「…なーんちゃってこの2ヶ月半ずっと一緒に授業受けてたんだけどな〜

にゃっははははは!」

豪快に笑うシュラさんに生徒はみんな圧倒される。

「シュラさん、説明を」

「あーはいはい、えーと?
とりあえず魔法円・印象術≠ニ…?剣技≠烽ゥよめんどくせ!

ふむ…よし、茜!魔印の方はお前に任す」

ぴし、と人差し指を向けられる。
まさかこんな形で自分に話が回ってくるとは思わなかったので慌てる。

「…へ!?聞いてませんよ!」

「2つ教えることあって2人この場にいるってのに2つともあたしが受け持つなんて不公平だろ!」

さも当たり前かのように言い放つシュラさん。いくらでも反発はできるが経験上丸め込まれるのが目に見えている。
魔印だってシュラさんの方が数倍上手く教えられるでしょうに。

一つ溜息を付いてから、

「…私でよければ、喜んで受け持ちますわ」

半ば棒読みで皮肉たっぷりに言ってのけた。

「よし、良い子だ」

「……」

くそう。

「え…と先生!」

その場で湧き上がる疑問に耐えかねたように手を上げ、勝呂が立ち上がった。

「んー?何だね勝呂クン」

「先生方…は何で生徒のふりしてはったんですか
あと魔印のネイガウス先生は?」

まあ至極当然の疑問だ。

「あ〜両方とも大人の事情ってやつだよ、
ガキは気にすんな?」

回答が適当すぎる。我が上司ながら嘘が下手な人だ。

「な…なんですかそれ…!」

どこから突っ込めば、と頭を抱えそうになった時、控えめに扉が開いた。

燐だ。

「スンマセン…
その…昨日あんま寝れなくて…授業中寝てたらHR過ぎても誰も起こしてくれなくて…」

ああ、いつも燐が寝てたら私が起こしてたからなあ。悪いことをしてしまった。

変装期間が終わったので学生としての私は家庭の事情で転校ということになっている。

「そんなとこで言い訳してないで入ってらっしゃい、怒んないからー」

シュラさんがかけた声に反応するように燐は顔を上げた。

「え?あれ…?お前!
昨日の鳥女も!」

と、と、鳥女って私のことか!!!!
ちゃんと自己紹介したっていうのに覚えられていなかったとは心外な。

「…樋口茜です、昨日までは椎橋ナジカでした」

「あー!だから今日ナジカが教室にいなかったのか!」

その言葉に苦笑していると、シュラさんが急かすように燐に声をかけた。

「ホラ、いいからとっとと席に付け!

茜、あとよろしく〜」

「そこには座ったままですか?」

「面白そうだし」

にゃは、と笑ったシュラさんは傍観してちょっかいをかける気満々だ。しょうがない人だ、という視線を無遠慮に押し付けてから、私は生徒に向き直った。

「改めて、魔印の授業を受け持たせていただきます、樋口です。仕事上とはいえ、騙すようなことをしていてすみませんでした」

眉を少し下げて笑う。謝っておいて損はないと思ったのだ。

「樋口…先生は、使い魔を出せるんですか?こないだの授業では出せてなかったと思うんですけど」

出雲が手を上げて質問した。
丁度良いから鳥女呼ばわりされた所以説明がてら出しておくか。

「私の使い魔は少し特徴的だったので、今までは出せないということで嘘をついて教員からの特異的な視線をかいくぐっていました。ほら使い魔出せる人って少ないし、目付けられたら面倒じゃない?」

言いながら、慣れた手付きで朱歌を呼び出した。少しすました表情で私の肩に腰を落ち着けた朱歌は、何故呼ばれたのか把握しているようだ。

「朱歌と言います。これから私の授業で居眠りなんかをしようものなら朱歌の嘴やら火の玉やらが飛んできますから、心してかかって下さいね」

手騎士候補の出雲、そしてしえみは特に興味津々の様で、少し身を乗り出している。
朱歌を肩に乗せたまま、授業に入ることにした。

「これ以上の質問は授業に差し支えますから放課後にお願いしますね。

…それでは授業に入ります。
印象学入門、土占いの章を開いて。

音読を…じゃあ奥村くん、お願いします」

どうなることやら分からないけれど、とにかく今は教師としてこの場に慣れていかなくてはならないようだ。


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