17
今日は学園町内にある遊園地(別称があるけどむかつくから言わない)で任務らしく、教室の燐は午前中は落ち着かない様子だった。午後からは睡眠に徹していたけれど。




「ナジカ!!」

放課後になり、この場所ではなかなか聞き慣れない声が聞こえてきた。

「出雲に朴…と、しえみ!?」

「あの、せっ制服の、「いいからナジカ早く来て!!」

緊張した様子で口を開いたしえみの発言を容赦なくスパッと遮った出雲は、私の腕を掴んで脱兎のごとく教室を後にし、廊下を走り抜けて無駄に豪華な装飾のなされた女子トイレに連れ込まれた。


あ、燐起こすの忘れちゃったけど…まぁ起きた、よね?

「しえみ大丈夫?」

しえみはいつもと変わらずきちんと和服を着ている。きちんと、つまり帯も帯締めもしっかりだ。そんな状態で出雲の人混みを掻き分けた疾走について来たのだからそりゃもう息も絶え絶えだ。

「いきなり学校なんかに来たら周りの奴全員から注目浴びるじゃない!だからさっさとあの場を去りたかったのよ!」

出雲も少し息を上げつつ、誰も責めていないのに弁解をはじめる。

「恥ずかしさのあまり私も巻き添えにしたと、」

「大体この子制服の着方わからないなんて言い出すんだもの!」

びしっとしえみを指差し、当のしえみと、付き添いであると思われる朴はへらりと笑った。

朴久しぶりだなぁ、私は朴と話がしたいわ。

「しえみいつも和服だもんね、体育ですら袴だったし」

「うん…制服なんて着たことなくて…理事長さんに支給していただいたの」

「へえ…」

理事長の計らいということは、それ絶対シャツがピチピチかスカートが短いか、もしくはどっちもだよ。
と思ったけどしえみは嬉しそうにしているので、今日は任務もあることだし、支給された制服を大人しく着て行かなければ。

「じゃー、取り敢えず着物脱いで行こうか」

「うん…!」

意気込むしえみは何かと戦うような顔をしている。

帯を解き、着物を脱ぐ。

下着姿になったしえみを見て、集合場所に行った時の男の子たちの反応を容易に思い浮かべることができた。

「…着痩せするタイプだったのね、しえみちゃん」

「へ?」

「ううん、なんでもないわ。これ羽織って」

しえみが脱いでいるあいだにボタンを外しておいたシャツを渡す。

「いやぁ、私もちいさくないはずなんだけどなぁ」

誰に同意を求めることもなくポツリと言うと、出雲は何のことか分かったようで「あんたも朴もこいつも十分すぎるのよ」とぼやいた。あ、ちょっと気にしてるのか。可愛い奴め。胸なんて大きくてもたいして良いことないのに、というのは胸にある程度満足している女の傲慢かな。


スカートにベルトを通して、首にリボン。正十字学園のリボンは大きいから形が崩れやすい。私はリボンよりもネクタイ派だけど。

やはりまだ着られている感は否めないが、なんとか纏まった。

「結構いいじゃない、すぐに慣れて着こなせるよ」

「そうかなあ…」

照れたように短いスカートの裾を摘まむ。あんまり持ち上げたら男が喜ぶから慎みなさいね、と窘めるとピシッと「気をつけ」のポーズを取った。

「ちょっと、集合時間余裕で過ぎてる!!」

時計を見るなり出雲が慌てだした。

「わわわ私のせいでごめんなさい!」

「まったくよ!」

憎まれ口を叩きながらもちゃんと付き合う出雲はなんだかんだで面倒見が良い。

朴と別れて、私たちは走り出した。

「遅れました…!!」

到着するや否や、待っていた男性陣は思った通り大きな反応を示した。

「し しえみ!?どうした?キモノは?」

「着物は任務に不向きだからって…理事長さんに支給していただいたの…」

一言置いてから、

「椎橋さんと神木さんと朴さんに着方を教わっていて遅れました…!」

そう言って雪男に遅刻理由を説明した。

少し不機嫌そうな出雲を宥めるように肩にぽん、と手を置いた。


「へ…変じゃないかな?」

照れたようにスカートの裾を掴むしえみに、鼻の下を伸ばしまくった廉造くんがハートマークを飛ばしながら答えた。

「えーよえーよ!杜山さんかわえーよー」

デレデレとした表情は、通常運転の廉造くんに限らず他の連中も似たような顔をしていた。
まあそうなるだろうなあ。

燐と雪男は数度言葉を交わすと、雪男が燐の顔面に資料と思われる冊子を叩きつけていた。
あらあら照れちゃって可愛い。

「えーでは全員揃ったところで二人一組の組み分けを発表します
なお人数が奇数のため、山田 勝呂 椎橋のみ三人一組とします」

前置きのあと、子猫丸と宝くん、しえみと燐、廉造くんと出雲という組み合わせが発表された。

勝呂は山田…つまりシュラさんと一緒になって少し不本意そうな顔をした。


今回この学園内遊園地をわざわざ閉園して行われた任務の概要は、来園者に被害を与え目撃もされているという子供の霊を捜索するというもの。

私は上辺だけ話を聞いているような態度で、視線は雪男の斜め上を睨んでいた。

人影が見えたのだ。あんな所に立っているのだから一般人とは程遠い、カラーコンタクトが視力を邪魔するが、恐らく捜索対象の少年ではなさそうだ。子供と言えるような背丈じゃなく見える。

一番の可能性として考えつくのは悪魔。それも召喚とかでなく、メフィストのように、それ単体として確固たる意思決定のできる程に上級の。

ああ、なんで私を燐と一緒にしてくれないのよバカ雪男、なんて身も蓋もないことを考えてしまう。
何も起きないと良いんだけど…というのは甘いな。あんなのが視界を彷徨ったんだ。何か起きるに決まってる。

解散、という雪男の少し張り上げた声に紛れて、小さな溜息をもらした。


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