14
「ん…あれ


ナジカちゃん…?」

しえみが目覚めたとき、部屋に茜の姿はなく、荷物も綺麗に整頓されていた。




「うはー、久々…」

しえみが目覚める2時間前に目を覚ました茜は、本部の自室へ、ある物を取りに行っていた。

「鍵って本当に便利だわ」

しかしそう長居してはいけない。一度戻ったということがシュラさんにバレてしまえば叱られるかもしれないからだ。
私はわざわざリスクを冒してまで取りに戻ったある物を手にとった。

「(来る前から必要になることを予測しておくべきだったわ)」

それは、4つの短い棒で、一つには羽が、一つの先端は鋭く尖っている。

矢のように。


羽のついた一本だけを片手で持ち、ブンッと下に振り下ろした。

すると一瞬で四本の棒が繋がり一本の矢になった。
隠し持っておくために工夫の施された特別な矢だったのだ。


それを棚からある分すべてを持ち、本部を後にした。



普段は勉強道具を入れている鞄に四つ折りの矢を潜め、茜は寮の廊下を歩いていた。


昨日の屍の出処をハッキリさせなければ。訓練生の身を確実に守れるのは同じ訓練生として行動を共にする私とシュラさんだけ。中でも私は皆と関わりが深い分動けることもあるはず。昨日みたいに…




「ナジカちゃーーーん」

「もう何よ、きん…


…あ、廉造くん」

「?、今何か言いかけへんかった?」

「う、ううん?なんでもないよ!」

いけない、思わずボロがでた。
ちゃんと聞けば全然違う声なのに、っていうか呼ばれてる名前すら違うのに、思わず「金造」と言いそうになった。兄弟恐るべし…

「えらい難しい顔しとったぞお前」

「考え事ですか?」

「うん、ちょっと…」

はは、と笑うと、急に廉造くんが私の両肩を掴んだ。

「ナジカちゃん、安心しいや!今度また風呂に悪魔が来ても俺がしばいたるからな!」

まっすぐ見つめてくる廉造くん。
燐ならこういうこと言いかねないけど、まさか廉造くんに言われるとは。
あんな悪魔を倒す術なんてまだ身につけていないというのに。
随分かっこいいこと言ってくれちゃって…

「れんぞ…」

「だから今日は一緒にお風呂に」

「こら志摩!!!!」


あーーーーあ。台無しだわ。


すぐさま勝呂の怒号が飛んだ。






魔印の授業でのこと。

やはり昨日の事がこたえたのだろう、出雲に元気がなかった。

「朴、塾辞めるって?」

「…知ってたんだ」

休み時間に尋ねると、いつもより低い声が答えた。実はカマをかけてみただけだったのだが当たりだったらしい。

「私が守れなかったから、朴は…」

次の授業で使う聖書を握りしめる出雲。昨日助けられなかった事を悔いているのか。責任感の強いタイプは、守るという意識が強すぎるから厄介だ。人のこと言えないけど。

「朴と出雲は違う人間なんだから、いつまでも同じ道には行けないわ」

「でも、私が守りたかった…」

「守ることだけが友情じゃないでしょ?」

「…あんたに何が分かるのよ!」

小さな眉を釣り上げ、久々に出雲に攻撃的な目で睨まれた。

「………そうね、何も分からないかもしれないわ」

「……朴は私の、たった一人の大切な友達なの」

「…そっか」

何も言えなかった。
友達という存在は私にとって、いると言えば無数にいるが、心から大切だと言える友達は片手で数えられる程度だ。金造もその一人。

自分から大切な人が、相手の意志で離れていく時の感情は、私はまだ経験していない。




「大半の悪魔は致死節≠ニいう死の理…必ず死に至る言や文節を持っているでごザーマス
詠唱騎士は致死節≠掌握し詠唱するプロなんでごザーマスのヨ!」

「では宿題にだした詩篇の第三○篇≠暗唱してもらうでごザーマス!

神木さん
お願いするでごザーマス」

「はい!」

教師の説明の後、出雲が返事をして立ち上がった。

しかしいつもなら完璧に暗唱してのける彼女が、今回は4行目すら言い終えず言葉に詰まってしまった。

代わりに指名された勝呂はと言うと、スラスラとつまる事なく暗唱し、
拍手と賞賛を浴びた。

その記憶力は私も少し感動した。
ここの学年は優秀な人材が多いな。

チャイムの音と共に、しえみが勝呂に声をかけた。

「すごいねえ勝呂くん!びっくりしちゃった」

しえみの隣ではブツブツと聖書を読む燐の姿。

「いやいや惚れたらあかんえ?

ええけど」

「てか坊やなく俺にしとき
やさしくするし」

「坊のは頭いい違おて暗記が得意なんですよね」

「コラ子猫丸?それ つまり頭いいゆうことやろ?

しばかれたいんか?」

「あ  はい」

京都三人の掛け合いを華麗にスルーしてしえみはまた勝呂に話しかけた。

「暗記って何かコツあるの?」

「あーコツか?コツか〜」

笑う勝呂を見て、私の隣にいた出雲はムッと表情を歪ませた。

「暗記なんてただの付け焼き刃じゃない!」

「こら出雲」

嗜めるように注意するとフンッと鼻をならす。

「あ?

…何か言うたかコラ」


ああ…また喧嘩になる

「暗記なんて……

学力と関係ないって言ったのよ…!」

見下すように勝呂を見る出雲。

「はあ?四行も覚えられん奴に言われたないわ」

「まあまあ
神木さんはクラスでトップの秀才ですよ?今日はたまたま調子が悪かったんですよ」


売り言葉に買い言葉。二人とも気が強いから子猫丸の静止も効かない。

「あ…あたしは覚えられないんじゃない!
覚えないのよ!」

私ははあ、と溜息をついた。

「出雲落ち着いて」

「詠唱騎士なんて…詠唱中は無防備だから班にお守りしてもらわなきゃならないし
ただのお荷物じゃない!」

「こら出雲!!」

声を張り上げるも出雲は席を立ち歩きだした。

「なんやとお…!?

詠唱騎士目指しとる人に向かってなんや!」

「なによ!暴力で解決?コッワ〜イ
さすがゴリラ顔ね!
殴りたきゃホラ 殴りなさいよ!」

駄目だ、もう止めても無駄だ。

私は頭を抱えながら出雲の元に歩いた。

「だいたい俺はお前気に食わへんねや!
人の夢を笑うな!!」

「ああ…あの「サタンを倒す」ってやつ?
…はッ
あんな冗談笑う以外にどうしろってのよ!」

「じゃあ何やお前は…
何が目的で祓魔師になりたいんや…あ?言うてみ!!」

「目的…?」

出雲の顔に変化が。何かを思い出しているんだろう。
祓魔師になるなんてこと、普通の人が考えるとは思いにくい。
出雲は入学した時から既に魔障を受けていたし、過去に何か、祓魔師への道を決意させるものがあったのだろう。

「……あたしは他人に目的を話した事はないの!
あんたみたいな目立ちたがりと違ってね…!」

その言葉を契機に、勝呂はついに出雲の胸ぐらを掴んだ。

その直後、出雲が反射的に右手を伸ばすと同時に燐が立ち上がり、彼の肩をバンッと叩く事で二人が我に返る結果になった。









夜、寮に戻ってからのこと。


「皆さん
少しは反省しましたか」

正座して膝の上に置かれた囀石。懐かしいなー囀石の刑。

「な…なんで俺らまで」

「連帯責任ってやつです

この合宿は学力強化≠ニもう一つ塾生同士の交友を深める≠チていうのもあるんですよ」

雪男のお説教に皆渋々耳を傾ける。

「こんな奴らと馴れ合いなんてゴメンよ…!」

出雲はまだツンケンしている。

「馴れ合ってもらわなければ困る

祓魔師は一人では闘えない!

お互いの特性を活かし欠点は補い
二人以上の班で闘うのが基本です。
実践になれば戦闘中の仲間割れはこんな罰とは比べものにならない連帯責任を負わされる事になる

そこをよく考えてください」

バツが悪そうに黙る出雲。
彼女だってそのくらいのこと分かっているはずなのに。

「…では僕は今から三時間ほど小さな任務で外します。
…ですが昨日の屍の件もあるので
念のためこの寮すべての外に繋がる出入り口に施錠し
強力な魔除けを施しておきます」

「施錠って…俺ら外にどうやって出るんスか」

「出る必要はない

僕が戻るまで三時間
皆で仲良く頭を冷やしてください」

ニッコリと笑った雪男は、そのまま部屋を出て行った。



ぞわ。



「!」

「…どうかしはりましたか?椎橋さん」

左隣に居る子猫丸くんが声をかけてきた。

「いや、ちょっと寒気がしただけよ、大丈夫」

「さいですか…?」

嫌な予感。私は弓矢を入れている鞄をさりげなく身体の脇に寄せた。


「つーか誰かさんのせいでエラいめぇや」

「は?
アンタだってあたしの胸ぐらつかんだでしょ!?信じらんない!」

また喧嘩腰になる出雲と勝呂。

「あんたたちいい加減にしなさい!」

「頭冷やせいわれたばっかやのに……」

子猫丸くんと私の声はまたも突っぱねられた。

「先にケンカ売ってきたんはそっちやろ!」

「…また微妙に俺を挟んでケンカするな!」

震えながら叫ぶ燐が可哀想だ。

「…ほんま性格悪い女やな」

「フン
そんなの自覚済よそれが何!?」

「そんなんやと周りの人間逃げてくえ」

「ちょっと勝呂くん言い過ぎ!」

「…………!!」


今の出雲にその言葉は残酷すぎる。
出雲に声をかけようと子猫丸くんの後ろから手を伸ばした瞬間、フッと視界が暗くなった。

「!?」
「ぎゃああ」
「あだっちょ…どこ…」
「何だッ!?」
物音と声が氾濫する。

「携帯!携帯の明かり!」
私が言うと同時に、廉造くんが携帯を開いた。

視界がようやく確保できた時、子猫丸くんの顔面を蹴る出雲とか勝呂にしがみつくしえみちゃんとか痛がる燐とか(ちなみに私は弓矢の入った鞄を両手で抱きしめていた)
いろんなものが見えたけどとりあえずそれらには触れず、
私も携帯電話を開いた。


「あ…あの先生電気まで消していきはったんか!?」

皆で可能性を考える。

「停電…!?」

「いや窓の外は明かりがついてる」

「どういうこと?」

「ブレーカーが落ちてるんじゃないかな」



「廊下出てみよ」

最初に行動に出たのは廉造くん。
さっきの携帯といいなかなか頼りになる人だな。

「志摩さん気ィつけてナ」

子猫丸くんが弱々しく言う。

「フフフ
俺こういうハプニングワクワクする性質なんよ
リアル肝試し…


……」


そう言いながら開いた扉のすぐ向こうには、そんじょそこらのお化け屋敷にも出てきそうにないなんともグロテスクなモノが佇んでいた。




バタン。





「…なんやろ目ェ悪なったかな…」

「現実や現実!!!!」


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -