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私はダンスが好きだ。
ジャンルはほとんど雑食に近い形で、バレエからジャズからモダン、リリカル、とくにこれと言って決まったものはない。日本舞踊も一応嗜み程度には、といった感じだ。

つまりただただ音楽に合わせて体を動かすという行為が大好きなのだ。
だから、

「……



………あっははー…

(やっっっちまった…!!!!!!)」

体育の授業でダンスなんかをした日には、体が反応する様に動いてしまっていたのだ。


「椎橋さんって本当に凄いよね!めちゃくちゃ恰好良かったよー!!」

「椎橋さん大人しい感じだと思ってたけど超アクティビティなのね!素敵だったわー!」

クラスでは出来る限り目立たない様にと心掛けるつもりだったというのに、自分は本当にこういう誤魔化す仕事は向いていない。入学して一週間足らずでクラスの女子の注目の的になってしまった。

「えーっと、あは…ありがとう」

若干引き攣った笑みで席に群がる女子生徒に対応する。ちょっとダンスができただけでここまで騒がれるものなのか。

「(まぁ…悪い気は、しないんだけど…)」











「俺とナジカって同じクラスだったんだな!!」

「燐」

放課後、お茶だの遊びだの色んな誘いを断って、やっと塾へ向かおうとしていた。

「今日気づいたんだ?」

「先に気づいてたんならお前の方から声かけてくれりゃ良かったじゃん」

それは話しかける暇もないくらいにあなたが寝ているからなんだけれど。
元々極力クラスで関わるつもりはなかったといえばそこまでだが。

「にしてもお前モテモテだったな!!ダンス上手いんだっけ?」

「そんなたいした事ないんだけどねー」

今日の体育の授業は男女が別の場所でしていた為、男子から注目を浴びる事はなかった。つまり燐にはダンスをしてる私を見られていない。せめてもの救いだ。




鍵を開けて燐と共に塾へ続く廊下に出ると、しえみちゃんが床に座り込んでいた。


「あら、大丈夫?」

「何やってんだお前」

「燐!と、椎橋さん…!」

「立てる?下駄って一回転けてから起き上がるの難しいよね」

顔を真っ赤にしてこちらを見上げる杜山しえみちゃんに手を差し出す。

「あああありがとう…!燐と椎橋さんは…」

どうして一緒に?と聞きたいのだろう。

「俺達クラス一緒なんだ!」

にかっと笑って私を親指で指差す燐。

「今日気付いた癖にー」

「うっせーな!」

がう、と吠える燐に、

「へええ…」

と羨ましそうな声を上げる。制服じゃないという事は彼女は家から塾だけに通っているのだろう。

「それにしても、杜山さんの着物っていつも可愛いよね、私、和服とか大好きなんだ」

「ほ、本当!?」

「うん!でも転ばない様に気をつけてね、こないだの体育実技、転びまくってたでしょ」

「あ、あはは…」

照れたように頭をかいた杜山しえみちゃん。ああ、可愛い…!

「じゃあ教室でね、」

燐にも手を振って、私はその場を後にした。

本当は彼女とお友達になっておきたいところだったのだが、昨日の授業の宿題をうっかり忘れてしまった私は、フルーツ牛乳を献上して出雲にノートのコピーを頼み込まなければならないという大切な仕事があったのだ。

「あ、あぁ…行っちゃった…」

だから、彼女の呟きは勿論聞こえなかった。







魔法円・印章術の時間。

担当のネイガウス先生が、大きな魔法円を囲んで説明を始めた。

「悪魔を召喚し使い魔にすることができる人間は非常に少ない
悪魔を飼い慣らす強靭な精神力もそうだが、
天性の才能が不可欠だからだ」

言葉と共に、魔法円から出てきた屍番犬。
その臭いに顔をしかめる。


思いつく言葉を魔法円に、という指示に、すぐさま反応しこたえたのは隣にいた出雲だった。

「稲荷神に恐み恐み白す

為す所の願いとして
成就せずということなし!」

「わ、すご」

思わず漏れた声は紛れもなく本音。
15歳で白狐を二体。天性の才能と言わずなんと言おうか。

ふふん、と自慢気に鼻を鳴らす出雲。

この授業で茜が使い魔を出す事はしない。それはナジカが茜であると公言するようなものだからだ。

「すごい…出雲ちゃん……
私全然ダメだ…」

「当然よ!私は巫女の血統なんだもの!」

「「あかん、センスないわ」」

「僕もです」

「私も駄目ー」

紙をひらひらと舞わせ間延びした声を出す。
わざと魔法円の一部を消したから出るわけが無いのだが。出雲のプライドの為にもここで自分も使い魔を出さなかったのは得策だったようだ。


目を輝かせた杜山さんも、照れながら紙に呼びかけた。

「おいでおいで〜…なんちゃって」

本人はどうせ出ないだろうという諦めともしかしたらの期待が半々だったんだろうが、

周りはまさか本当に使い魔を出してしまうとは思わず、皆一様に驚いた。



照れたように笑ってから緑男を頭に乗せ、ハッと思いついたように出雲にこえをかけた。

「わ  わわ私も使い魔出せたよ!」

「……!!」

仲良くなるチャンス、とでも思ったのだろうか。出雲はあからさまに顔を顰めてから、

「へぇ〜スッゴーイ

ビックリするくらい小ッさくて
マメツブみたいでカワイ〜!」

「あ  ありがと!」
顔を赤らめる杜山さん。


…凄い、皮肉を皮肉と捉えてない。
こりゃ出雲の癪に障るだろうな。





授業終了後。



「ナジカなら使い魔の一つくらい出せてもおかしくないのに、
なんであいつが…」

「あはは…」

苛立つ出雲に苦笑しつつ、教室に向かうために廊下を歩いていた。

「神木さん!」

すると後ろから大きな声で杜山さんが追ってきた。

「出雲ちゃん…呼んでるよ?」

「ムシムシ!行こう2人共!

アイツムカつくのよ」

杜山さんを無視してスタスタと歩く。私は立ち止まって杜山さんが追いつくのを待った。また転けないと良いけど…

立ち止まった私の隣でおろおろする朴。

「おーい!おーい!」とさけびながら付いてくる彼女に、最終的に出雲が折れた。

「何であたしにつきまとうのよ!
ちょっと使い魔召喚できたくらいでいい気にならないでくれる!?」

いつもの落ち着きはどこへやら、容赦なく怒号を飛ばす出雲に、杜山さんは負けじと大きな声で言った。



「わ私と

おおとお友達になってください!」





あらやだ可愛い。


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