「この紫ジャージもっと可愛くならないのかな…」

朴と出雲は次の体育実技の授業の為に既に競技場へ向かった。
茜はお手洗いに行ってから〜、と誤魔化して、ウィッグを付け直していた。

「コンタクトずれませんようにずれませんように」

念じながら元の赤茶色の髪を結い上げ、上からウイッグを被せる。
スプレーで違和感が出ない程度に固めて、内側に4本、外側からも左右一本ずつピンを留めて完全防御。
体育ということで、紺の髪は低い位置で纏めている。

「これでバレたら、それはこのウイッグを選んできたシュラさんのせいね」

と、なんとも無茶な責任のなすりつけ方をして、女子トイレを後にした。

競技場に向かおうとする途中、噴水の方から「おーい」と呼び止められた。

最初それが自分に向けたものだと気づかなかったが、奥村燐は明らかに茜に向かって手を振っていた。
すぐ近くには雪男と、和服美少女の杜山しえみちゃんもいる。

「(仲良くなるチャンスきた!!!!!!)」

近づいて行き、便宜上教師である奥村雪男に会釈した。隣の杜山しえみちゃんにも笑みを向ける事を忘れずに。

すると奥村燐が先程の時間に見せていたのと同じキラキラとした目を向けてきた。

「お前すげーな!」

「え?あー、テストの事かな?」

「おう!あの勝呂をスッパーンって切っちまうあのカッコ良いやつ!俺もやりてえええ

100点突きつけてどや顔してえええ」

あ、やっぱり私そんなにどや顔してたんだ。


あはは、と笑いながら噴水の段差に腰を下ろした。

我ながら後から振り返ってもなかなか大人げない事をした。
点数に負けたからといって敵意剥き出しで仲を険悪にする程、勝呂が子供でない事を祈るばかりだ。

「でも椎橋さんは本当に優秀ですね」

「ありがとうございます」

雪男の言葉に素直に礼を言う。
雪男は椎橋ナジカが自分だと知ったらどんな風に驚くだろうか。

「お前椎橋って言うのか?」

奥村燐が聞いてくる。
杜山しえみちゃんも何か言いたそうにこちらを見ている。

「椎橋ナジカっていうの。
好きに呼んでね」

「俺は奥村燐!よろしくなナジカ!」

「よろしく燐」

出された手に応じて握手しつつ、茜は順調に進む仕事に満足感と一抹の不安を覚えた。

このまま燐が青い炎を私に見せないでいてくれたらありがたいのだが。

「そういえば、奥村先生と燐は双子なのよね?二卵性なのかな、あんまり似てないのね」

「雪男ばっかりモテるんだぜ?同じ双子だっつーのに」

不機嫌そうな声を出す燐。

「へえー、私は燐みたいな男の子もカッコ良いと思うけどな」

「え、まじ!?」

あからさまに嬉しそうな顔をする燐がなんというか、可愛い。

にっこりと笑ってから腰をあげた。

「まじまじ!じゃあ、私先に競技場行ってるね。杜山さんも、また後でね」

ひらひらと手を振ると杜山しえみちゃんは背筋をぴんと伸ばして「はい!」と元気良く返事をした。

「(可愛いな!!!)」


るんるんと競技場に向かう途中、京都の三人組と出くわした。

「あ、ナジカちゃんやん」

廉造くんがへらへらした笑みを向けた。こちらも挨拶がわりにニコ、と返す。

勝呂はまっすぐこちらを見ている。

「さっきは売り言葉に買い言葉みたいになっちゃってごめんね勝呂くん」

大人気なかったことは認めるべきだとは思っていた。

「いやこっちこそ、悪かったな」

勝呂は少し罰が悪そうに目を逸らした。

「でも100点やなんて凄いですねえ、やっぱり医工騎士目指してはるんですか?」

子猫丸くんが声をかけた。

「うん、そのつもり」

せっかく塾にもう一度通うならもう一つ称号を取っておこうか、ということは前々から考えていた。
暗記物が苦手な私としては、これからサタンのせいで激しくなるであろう戦況も考えて、医工騎士を目指すつもりでいた。

「じゃああの辺は得意分野か」

勝呂が聞いてきた。

「うん。一番気合入れてる分野でもあるしね。そのかわり暗記系はほとんど駄目なのよ私」

へらりと笑ってみせると、ふーん、と興味無さ気に言いながらも、暗記系が得意な分若干の自信を取り戻しつつある様子の勝呂。

「(扱いやすいな坊…)

さっきのことで嫌われたらどうしようかな、ってちょっと不安だったのよ。これからもお互い頑張りましょうね」

先程燐と握手した手を今度は勝呂に差し出した。

「ああ、よろしく」

馴れ合いを嫌うタイプでは無いと分かっていた。まぁ普段から三人で行動しているところから見ても。
ただやる気のないタイプがどうにも許せない性分なのだろう。

「じゃあ体育の授業でね」

子猫丸くんと廉造くんにも手を振ってから、私は再び競技場に足を向けた。


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