「ナジカちゃん」
放課後、塾の教室に続く廊下をぼーっと歩いていると後ろから可愛らしい声がかかった。
「あ、朴!出雲も!」
「教室行くんだよね?一緒に行こ」
「うん」
出雲をはさんで三人ならんで歩く。
他愛も無い会話が繰り広げられようとしていた中、出雲が敵意丸出しで声をかけてきた。
「あのさあナジカ」
「ん?」
「こないだの植物学の小テスト、どうだった?」
「出雲ちゃんってばナジカちゃん途中で寝てたけど大丈夫だったのかな、って心配してたんだよ」
出雲の奥からひょっと顔を出した朴はへらりと言う。
「わ、嬉しいな」
心配というかおそらくライバル心を燃やされているだけなのだろうが。
「は、話逸らさないでよ!
どうだったの?まさか全然分からなくて諦めて寝てたわけ?」
「いや、あの辺はテストの直前に頭に流し込んだからね、テスト始まってから忘れる前に全部急いで埋めたの。だから時間余っちゃったんだよね」
「…ふーん…自信あるの?」
「まぁ、それなり?」
「あるのね?じゃあ勝負よ!」
「え」
「出雲ちゃん!?」
ビシッという効果音が聞こえそうなくらい勢いよく私に人差し指を突き出した。
「私が勝ったらフルーツ牛乳、貴女が勝ったら…」
うわ、何か変なこと言われそうだ。
出雲の発言を遮って提案した。
「じゃあ私が勝ったら一緒にショッピング、でどう?」
「ショッピング??…まぁ、いいわ、私が勝つもの」
「(多分あれ私にケアレスミスがなかったら100点だけど大丈夫かな)」
卒業生をなめてはいけないのだよ後輩。
授業中、寝ては怒られうとうとしては注意される奥村燐に意識を向けつつ、どのタイミングでコンタクトを取るかを考えていた。
あの和服少女とも仲良くなりたい。この感情は仕事云々ではなく茜個人の興味なので優先されるべきではないが。
「(だって可愛いんだもんなあ…)」
そして雪男の悪魔薬学の授業。
「それではこの間の小テストを返します」
ぴくっと反応を示す隣の出雲が可愛い。
順にテストを返してもらう中、テストを返却された出雲はいつこちらに勝負の話を切り出そうかとうずうずしている様子だった。
私のテストはまだ返されていない。
しかしそんな中、私は勝呂くんと奥村燐の掛け合いに気が向いていた。
「な…何の権限でいってんだこのトサカ
俺だってこれでも一応目指してんだよ!」
「お前が授業まともに受けとるとこ見たことないし!
いっつも寝とるやんか!!」
人を外見で判断してはいけない、けど、まぁ確かに勝呂くんが成績優秀とはなかなか面白いギャップだ。
勝呂達磨の息子であることはすでに知っている。
よく努力したのだろうな。
すると何故か彼の怒りの矛先が私にまで飛び火した。
「寝とるといえばお前もや椎橋!
テスト中やっちゅーのにぐーすか寝さらしよって!!意識が低い証拠やろうが!」
ふむ、ごもっともだ。
でもなんというか、反論しないと私の名が汚れるというか(まぁ偽名なんだし汚れようがなにしようがって話なんだけど)。
引き下がるわけにはいかないね。
席に座って肘をついていた私はにや、と笑って腰をあげた。
「あら、そういうことは私の点数見てから言ってもらえる?
奥村先生、私のテストは?」
「あぁ、はいどうぞ椎橋さん、素晴らしいですね」
1がひとつに0がふたつ。
それをこれ見よがしにひらひらと勝呂に向けてにっこりと微笑んだ。
「(うわ、私今すっごいどや顔してる!!)」
勝呂の隣では、何故か目をキラキラさせた奥村燐がこちらを見ていた。