君はサンシャイン 4
アイドルを、やることになった。
ひいては、バレー部の皆様方にその旨をお伝えせねばならない。
ものすごく緊張していたというのに、三年の先輩はなぜか学年中に広まっているとかで既に知っていて、
「頑張れよー!」
「踊ってて転ぶなよ、お前危なっかしいからな!」
などと声をかけては私を小突いた。
二年の先輩達は驚いていたけれど、みんな一様に応援してくれた。菅原さんも、にっこり笑ってくれた。
潔子さんに至ってはなんだかはりきっている。マネージャー業のことは気にしなくてもいいから思い切り頑張って、と言ってくれた。女神だ。
そして、一年、というか龍と夕は…
「ハァ!?お前が!?アイドル!?ぶっはまじかよ!!」
と笑い転げた。し、しばきたい。
「わ、私だってまだ実感ないわよ!正直なんで潔子さんにスカウト来なかったのか未だに不思議で仕方ないわよ!」
「いやまじでそれだろ!お前アイドルとかできんのか?」
龍の言葉に、少しぐっと言葉に詰まる。できる、と自信満々には言えない。
「が、頑張るわよ…マネージャーの方も、今まで以上に、頑張る」
「まぁお前なら出来るんじゃね?うん、頑張れよ」
さっきまで龍と一緒になってゲラゲラと笑っていた夕は、まるで妹でも見守るみたいに、私を応援してくれた。
「あ、ありがと…」
その日の帰り。みんなでぞろぞろと歩いていると、菅原さんがこちらに来た。
「秋宮、ちょっといい?」
よくないわけがない。大好きな先輩のお声掛けに、私は二つ返事で応じる。
みんなの群れから少し離れて二人で並んで歩く。
「菅原さん、こないだはありがとうございました。菅原さんのおかげで決められたんです、どっちも頑張ろうって」
「あー、うん。いや、なんかさ」
「?」
全然いいよー、みたいな返事が返ってくるかと思いきや、先輩は言いにくいことでもあるかのように頭を掻いて言葉を探している。
「実は、俺、ちょっと後悔しててさ、秋宮にアイドル勧めたの」
「え、」
一気に私に不安が襲う。応援してくれるって、笑ってくれたのに。
「だって、アイドルやるってことは、秋宮が可愛い格好して人前で笑顔振りまいて歌って踊るんだろ?そんなんしたら、」
増えるじゃんか。
菅原さんの言っている意味が、分かりそうでわからない。何が言いたいんだ。
「あの、えーと、いまいち話が見えなくて…ごめんなさい」
「いや、ごめん俺もなんか、混乱?みたいな、してて、えーとな、だから、その、」
しばらくもにょもにょ言っていたかと思えば、先輩は突如私に向き直った。
「俺実はさ、秋宮のこと、好きなんだよね!」
「!?」
「もっと仲良くなってこう、外堀埋めるっていうか、色々話したりして仲良くなった。してから言いたいと思ってたんだけど、秋宮がアイドルやるってなって、なんか俺、焦っちゃって…あーくそ、ださいなー俺」
「……」
「変な虫が寄って来ちゃうくらいなら、その前にもう、俺が、とか、思っちゃって…ごめんなんか本当、ダサくて」
「……ほ」
「え?」
「ほんとに、?」
「え、うん、もちろん…こんなこと冗談で言えないよ」
「うそ…わたし、入部したときから、ずっと菅原さんのこと好きだったんですよ…夢みたい」
「…え、まじで?」
「まじです」
顔に熱が集まっているのがよくわかる。だけどきっとそれは目の前の菅原さんも同じだから構わない。夢にも思っていなかった展開に、むしろ夢でもいいからこの時を忘れたくないと、私はただただ菅原さんを見つめていた。男の人にしては長いまつげが揺れている。
「え、じゃあ、えっと、俺と…付き合ってくれる?」
「はい…!」
かくして憧れの先輩と、恋人同士になってしまった。正直とんでもない展開に私の頭はついていけない。
気づくと部のみんなはずっと先を歩いていて、こちらの話は聞こえていないようだった。
「んー、一応まだ皆には内緒にしとくべ」
「そ、そうですね」
「一緒に帰れそうなときは、一緒に帰ろう」
「はい!」
もう、夢心地で、そこからのことはあんまり覚えていない。少しだけ、歩いているときの距離が近かった気もするし、しない気もするし、もういっぱいいっぱいで、気づいたらまた家で、去って行く先輩の背中を見ていた。
なんだこれ。最近いろいろありすぎでしょ…!