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君はサンシャイン 9


入学式直後はしばらくRavenの入部希望者対応に追われた。
まだ2年とはいえリーダーなのだ。バレー部に顔を出せないのは辛いけれど、これに関しては仕方が無い。

Ravenとしては、新メンバーを全く入れないというスタンスは取っていない。
書類である程度専攻した後で、オーディションを行うことになっている。しかしRavenの根本は、高校生活を充実させる生徒が、それを外部に発信して烏野の良さを伝えること。
そのために本来なら邪魔となり得る兼部をあえて歓迎し、練習量も他のスクールアイドルと比べると多少少ない。Ravenに入る人はRaven以外の場所でも烏野ライフを充実させている人が望ましいのだ。
その上で、来年にはいなくなってしまう歌詞、楽曲、衣装作成要員を埋めたい。

こうなると一気に門は狭くなる。
可愛くて、アイドルが好き、という子ならたくさんいる。他校のスクールアイドルにならなれるんじゃないか、というレベルの高い子だっているが、3年生の代わり探しとなると、なかなか難しいものだった。

前生徒会長よろしく、スカウトしていく方が賢いのだろうか。そもそも、私は3人ナシでスクールアイドルなんてやっていけるのか。
ここまで人気のでたグループを絶えさせてはいけないだろう、という周りの目もあって決めたことだったけど、私自身はいまいち納得できていなかった。



そんな悩みを抱えつつも、土曜日の今日は入学式後初のバレー部に来ていた。
久々の部活だ!いつも潔子さんに任せきりな分、今日はいっぱい働こう。
なにより、孝支先輩からの情報によると、なかなか面白そうな1年生が入ってるとのこと。



「お!ひかり!」

後ろから聞き慣れた声を聞いて振り向く。
大地さんと孝支先輩、そして龍が立っていた。

久々の3人にテンションが上がる。

「おはようございます!龍もおはよ!」

「おう!まあ俺ら毎日会ってっけどな!」

そう言われてそりゃそうだ!と言いつつにかっと笑い合う。今年は夕とクラスが離れて、龍とクラスが同じになった。なんでも最近の龍は1年生の早朝練に付き合ってるとかで、最近ではクラスでは完全に爆睡を決め込んでいる。

「なんかにやにやしてんなーひかり?」

「へ!?いやっだって久々の部活ですし!練習試合なんですよね今日!もう楽しみで!」

ふんふん、と鼻息でも荒くなっていそうな勢いで言うと、孝支先輩がははっと笑った。

久々に潔子さんにも会えるわけだし、もうテンションだだ上がりだ。孝支先輩とも今日はずっと一緒にいられる。ああ幸せ!もう幸せ!





今日の午前は、アップや準備を済ませ次第、練習試合になるらしい。

私はとりあえず試合に出る六人分のドリンクを準備することにした。


ドリンクを持って体育館に入ると、見慣れない姿に胸が躍った。

1年生だ…!!

「ひかり、ありがとう。持つよ」

「あっ…ありがとうございます…」

にっと笑う孝支先輩のスマートな優しさ。部活内でそれに触れると余計に恥ずかしくなる。ドリンクの入った籠を持ってくれる孝支先輩に続いて体育館に入ると、

1年生とおぼしき男の子が大きな声を上げた。


「ああーー!!あ、あ、アイドルの!」

はは、まあこうなることくらいは少し予測してましたよ、はい。

内心苦笑しつつ声の方向を見ると、くりくりとした大きな目を煌めかせたオレンジ頭の少年が私を見て大きく口を開けていた。

あれ?あの子…


「君もしかして、入学式ライブの時、一番前にいた男の子?」

「おおお覚えててくれてるんですか!!」

「うん、そりゃあんなにまじまじ見られてたら覚えるよ。バレー部にようこそ、オレンジくん」

にっこり笑うと、日向です!よろしくお願いします!と大きな声で挨拶が帰ってきた。

日向くんかあ。可愛いなあ…

「入学式ライブで日向に会ったの?」

孝支先輩に聞かれて、会ったってほどじゃないんですけどねー、と言いつつ頭を掻いた。

「私の立ち位置の目の前にちょうど日向くんが居たんです。すごいキラキラした目で見て来てたもんだから、なんかおぼえちゃってて」

そう言いつつ私達はなんとなくスコアボードの隣に並んで立った。

「ふーん…なんか、まあ今更だけど、」

そう言いながら孝支先輩は私に少し顔を近づけてくる。

「?」

「アイドルの彼氏ってやっぱり気が気じゃないね」

ちゃんと俺のこと見ろよ、と言いながら私の頭をぽん、と撫でて来た。

「ヤキモチはめちゃくちゃ嬉しいですけど…私こ、…菅原さんのことしか、見えてませんからね」

そう言うと、孝支先輩はじゃあいいべ!と爽やかに笑った。部活中は孝支先輩じゃなく菅原さん、と呼ぶと決めていたにもかかわらず、危うく孝支先輩と呼びかけたことにも気を良くしたようだった。いじわるだなあ。でも今日も今日とて胸キュン、あざす。


そんなこんなで練習試合。
見ていて本当に飽きないけれど、同じくらい本当にハラハラさせられるものだった。

月島くん、というらしい1年生MBのあからさますぎる挑発と、すぐ脱いでうるさい龍と、徐々に冷静さを欠く影山くん、というらしい1年生セッター。そして、どれだけ飛んでもブロックに阻まれる日向くん。

「すごいのに、もったいないな…」


競技自体の経験はない私だけど、中学からずっとバレーを見てきた。経験からか、勘なのか、何かすごいことが起きる予感がしていた。

イマイチかみ合わない歯車のような、龍たちのチーム。

ふと隣の孝支先輩を窺うと、彼は突然立ち上がり影山くんに想いをぶつけた。

「なんか、うまいこと使ってやれんじゃないの!?」

必死に影山くんに気持ちを伝える孝支先輩。
その背中に、羨望と、少しの焦燥と、溢れんばかりの優しさを感じた。



結果、とんでもない化学反応を起こした日向くんと影山くんの大活躍で逆転勝利。

みんなにドリンクを配り終えると、私は潔子さんと片付けに入っていた。
ボールを直しながら、私たちは少し雑談する。

「やっぱりバレーボールってかっこいいですね、潔子さん!」

「そうね…まあひかりは選手より菅原にときめいてたんじゃないの」

無表情でそんなことを言うものだから、本気なのかからかいなのかわからず、思いっきり吹き出した。
普段恋愛関係については一切つっこんでこなかった潔子さんだから尚更焦る。

「な、潔子さん!?」

「いいじゃない、もう公認なんでしょ?」

「え、ええー…」

そんな話をしていると、大地さんが私達に声をかけた。

「アレ、もう届いてたよな?」

潔子さんがうなずくと、私もすぐになんのことか合点がいった。
私達は「アレ」を取りに体育館を出る。

潔子さんに重いものなんて持たせられない!という謎の使命感は2年になった今も健在で、大きめなダンボールを私は嬉々として抱えて体育館に戻ってくる。

ダンボールの中身を見て日向くん達は目を輝かせた。うーんやっぱり1年生って可愛いなあ。

ジャージを着た1年生たちにポーズをレクチャー(?)する龍たち。素直に従う彼らが可愛い。
いそいそと私は彼らに近づいた。

「似合ってるね、四人とも!

えーと、自己紹介が遅くなってごめんなさい。2年で、マネージャーの秋宮ひかりです!ちょーっと副業があるからたまに練習いなかったりするんだけど、よろしくお願いします」

にこっと笑って四人を見ると、一様にほけー、とこちらを眺めていた。
えっ私なにか間違えただろうか。
そんな私達を見た龍が助け舟を出してくれた。

「お前らあれだぞ?一応こいつ烏野のスクールアイドルのリーダーだぞ?結構人気あんだぞ?」

「そんくらい知ってますよ」

月島くんが呆れたように言う。

「Ravenってめちゃくちゃ有名じゃないですか。そんな人がバレー部のマネージャーやってるなんて、意外すぎてびっくりしただけです」

「Ravenってなんだ…」

影山くんが日向くんに向かってそろっと呟いた。

影山くんと月島くんって相性悪そうだなあ、面白い。
月島くんがにやっと笑って影山くんを見る。影山くんをからかう前に私が説明した。

「え、えーとね!私、副業でスクールアイドルっていうのをやっててね?スクールアイドルっていうのは、烏野の生徒でアイドルグループ作ってやってる、みたいなやつなんだけど…それのグループ名がRavenって言うの。一応入学式の後にライブやってたんだけど、あんまし覚えてないかなー…」

私が下手くそなりに説明すると、日向くんが入ってきた。

「おれめっちゃ見てました!ライブ!秋宮先輩が一番かわいくて一番上手でした!」

純粋な目でそんなことを言われると、さすがに照れてしまう。

「あはは、ありがとう日向くん。またライブ見に来てね」

「うす!」

「お、おれも、Raven好きです!」

そう言ってくれたのは月島くんと同じチームだった山口くん。ああ、日向くんと同じ、可愛らしい1年生、って感じだ。なんだか安心して、ありがとう、と微笑んだ。

試合中はどんな子達か、と不安にも思っていたが、やっぱりこうやって話すと普通の男の子だ。

「あ、俺のこと、全然呼び捨てで大丈夫です!」

と言ってくれた日向くんは一年生の中ではずば抜けて社交的な男の子なんだな、と思う。じゃあ日向って呼ぶね、と笑うと、はい!と元気に返事をくれた。

そんな話していると、
今年から顧問となった武田先生が体育館に駆け込んできた。





「組めたよー!練習試合!

相手は県のベスト4!青葉城西高校!」







わぁ。まじですか…


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