7
君はサンシャイン 7

Ravenの部室は音楽室などの特別室の並びの隅にある空き教室。
今では私たち5人のやりたい放題にいろんなものが飾られている。

制服に戻ると、互いに労いの言葉をかけあった。みんな、アイドルとして初めて舞台にたった感動やらなんやらで、どこかふわふわしていた。なにかすごいことが起こった、という感覚は共通してあった。

私は無性に、菅原さんに会いたかった。

5人そろって部室を出ると、私はバレー部を覗いて帰る、と告げて一人で第二体育館に足を進めた。


「秋宮」

大好きな声に呼ばれて、私は声の方をパッと見る。

「菅原さん!」

一番会いたかった人に会えた嬉しさに、思わず顔がほころんだ。

「お疲れ様。すごかったよ、Raven」

「へへ…もう私なにが起きてたのかよくわかんなかったんですけどね。でも、楽しかったです」

余韻に浸る、とはこういうことを言うのだろう。
先輩以外のバレー部は見当たらなくて、部活が終わっていることを勘付かせた。待ち合わせてたわけでもなかったのに、待っていてくれたことが嬉しくて、胸が温かくなった。


「みんなびっくりしてたよ。三年生なんて、あいつあんな早く動けたのか、とか言ってた」

「それただの悪口じゃないですか!ひどいなー先輩達」

「他の奴らはもうやばいとかすごいしか言ってなかったよ、西谷は俺の知ってるひかりじゃない、とか言ってた」

「まぁ確かに、夕だって多分私が踊ってるの見たの初めてだと思いますしね…

あ、あの、菅原さん」

「ん?」

「菅原さんは、どうでしたか?その、私達の、ライブ」

「よくがんばったんだなーと思って、思ってた以上のクオリティちょっとびっくり、あとは、秋宮がこっち見てくれた時はどきっとしたかな。何より楽しそうな秋宮が見れて嬉しかったよ」

そういって私に笑いかける先輩。
菅原さんの笑顔に弱い私は少し顔が熱くなる。だけど。

「ありがとうございます」

「うん。かっこよかった」

「…それだけ、ですか?」

「え?」

先輩の言葉を疑っているわけではないのだけれど。でも、なにか隠されている気がする。そして、それを私は聞かなくちゃならない気がする。

「なにか、他に言いたいこと、あったりしませんか?」

「…はは、すごいなあ秋宮。お見通しだ」

「わ、ごめんなさい、聞かれたくなかったら良いんです!」

「んー、アイドル相手にこんなことしたら、スキャンダルとかなんのかもしんねえけど…」

そういうと菅原さんの肩が近づいた。

「菅原さん?」

「ちょっとごめんな、」

そう言うと菅原さんは私の肩を抱き寄せた。

これ、だ、抱きしめられてる、!?

顔が見えないから、先輩が今どんな顔してるのかわからない。でも、多分笑ってない。

「す、すがわらさ…?」

「贔屓目なくさ、秋宮が一番可愛かった。多分、もし俺が秋宮のことを今日まで知らなかったとしても、俺は秋宮に惚れてたと思う。本当に、びっくりした。あんなに良い笑顔で笑ってんだもん、ちょっと妬いたべ」

「……」

「俺なんかが彼氏で良いんかな、とか思ったんだけど、でもお前のこと、離したくないなーとか、考えてた。多分俺、秋宮が思ってるより余裕無いし、秋宮が思ってるよりも秋宮のこと好きだ」

嬉しいことばかり言う菅原さんに、胸がキュンを通り越して痛かった。菅原さんの心臓の音と私の心臓の音、どっちも、うるさい。でも、もっと聞きたい。
私は彼の胸に頬をすり寄せたまま、背中に腕を回した。

「私だって…きっと菅原さんが思ってるよりも、菅原さんのこと好きです。
今日、バレー部の誰よりも、菅原さんが見てくれてるって思えたから頑張れました。菅原さんに、私のこと可愛いって言ってもらいたくて、いっぱい笑いました」

うずめていた顔をあげて、菅原さんを見上げる。菅原さんも、腕の力を緩めて私の目を見てくれた。

「大好き、すがわらさん」

「…両想いなのに、片想いしてるみたいだな、俺たち」

そう言うと、ゆっくりと菅原さんの顔が近づいてきた。

あ、これってもしかして…

菅原さんの綺麗な目がゆっくりと閉じられる。長くてふんわりしたまつげが伏せっていくのを見て、私もゆっくり目を閉じた。

私達はキスをした。



胸がいっぱいで、余裕なんて微塵もない。でもそれは、きっと菅原さんもだから。
ゆっくりと唇が離れて、でもまた触れそうな、1cm未満の距離で、

「ひかり…」
「!」

初めて下の名前で呼ばれる。

「二人の時はさ、こう呼んでもいい?」

優しい目をした菅原さんから目が話せなくて、私はおずおずと口を開いた。

「はい、…こ、孝支、さん?」

そう言うと、菅原さんは少し目を見開いてから照れ隠しに勢い良く私を抱きしめた。
ああ、絶対今可愛い顔してる。くそう、隠された。

「それは反則だろ…」

弱々しい声も好きだなぁ。そんなことを考えながらふふっと微笑む。

でも、いま思えば3年生のなかでは菅原さんだけが何故か苗字呼びだった。大地さん、旭さん、菅原さん。そうなれば、孝支さん呼びもそうおかしくはないかもしれない。ふむ。

「孝支さん、顔見せて?」

「……情けない顔してるからだめ…てかなんか、孝支さん、て、奥さんみたい」

調子に乗って菅原さんの胸にまた擦り寄っていると、そんな爆弾を落とされてフリーズする。

「お、おっおく…!?」

「はは、照れてる、かわいーなー」

よしよしと頭を撫でてくれるけど、私は奥さんという言葉に動揺を隠せない。こんなんではこれから下の名前でなんて呼べない。菅原さん呼びに戻すか、と考えたところで、ある呼び名に行き着いた。

「じゃあ、先輩!こ、孝支先輩!これならまだ、後輩っぽいで、しょ…」

そう言うと、次に動揺したのは菅原さんの方だった。可愛いなこの人。普段下の名前で呼ばれ慣れて無い人って本当可愛い。

すると遠くから人の足音が聞こえてきた。

「!」

お互いの腕の中という至近距離で話していたことを今更思い出して、勢い良く離れる。暗いからわからないけど、顔はお互い真っ赤だろう。

「ご、ごめん、遅くなったっちゃったよな、帰るべ」

「は、はい!」

慌てて歩き出したすが…いや、孝支先輩に続いて、隣を歩く。
今まで繋いだことなんてなかったのに、どちらからともなく自然に手を繋いだ。

彼は何も言わなかったけど、それがかえって私の居心地を良くさせた。

この人を好きになって良かった。

季節は、もうすぐ夏になろうとしていた。


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