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賢いカノジョ 7

「じゃあ日向、講評頼めるか」

練習もクールダウンも終え、ミーティングのために集まって来た彼らの前に、烏養コーチと並び立つ。
優羽は少し苦笑してから、はい、と答えた。

「改めて、青城バレー部の日向です。練習お疲れ様でした。

講評、なんて大したものではないけれど…感じたことをいくつか。今後の参考になればと思います。
まず、先日の練習試合にいらっしゃらなかった西谷くんと東峰くん。こないだは2人のことを警戒して臨んだ練習試合だったので、私たちとしては驚きました。2人がいなかったものだから」

そう言うと、烏野一同は視線を下げて沈黙した。やはりこのことは聞かない方が良いか、と優羽は早々に話を進める。

「いらっしゃらなかったことの理由は分かりませんが、2人の内、西谷くんは実力をキープ、もっと言えば向上させているのに対し、東峰くんはいささか精度も強度も落ちています。あなたのパワーは烏野における大きな強みでしょうから、更に強度が上がればきっと、鉄壁も撃ち抜いてしまうでしょうね」

さらりと言うと、菅原が「見てたのか?」と漏らした。ビンゴか、と優羽は内心ほくそ笑む。2人が居なかったことの原因は優羽も見ていた伊達高との試合にあるようだった。

「伊達高は私たちとしても警戒すべきチームだもの。そこで烏野の試合も見れたのは幸運だったわ」

そこで優羽はさて、と話を元に戻した。

「これは多分コーチや、メンバーももちろん感じていることでしょうけど…あまりにもレシーブが甘すぎる。特に一年生。うちの主将負かしたかったらもう少し磨いとかないと、サービスエースで1セットもらっちゃうよ?」

意地悪く微笑んだ優羽の言葉は半分冗談、半分本気だ。

「それからトスなんだけど…特に菅原くん」

「えっ俺!?」

「うん、精度もコースも申し分ないとは思うけど、どこの誰に上げるかが分かり易すぎるわ。表情でね」


「…俺、そんな顔に出てたかな?」

「うん。東峰くんや澤村くんにあげる時は心底嬉しそうに。でも2人の中でも東峰くんへのそれと澤村くんへのそれとはまた少し違う。田中くんにあげる時は応援するような、背中を押すような表情。翔ちゃんや飛雄、月島くんや山口くんに上げるのもまた、それぞれ表情が違う。

見ている分には菅原くんが本当に優しい良い人なんだなって思えてほっこりできたんだけど、正直表情見ただけで誰が打つかが読めちゃうんだから、潰しやすいったらないとも思ったわ」

「…そんなの初めて言われた」

菅原の言葉に優羽はにこりと笑って返す。そして途端に表情を厳しくさせた。

「それから飛雄!」

「ウス!」

「吠えすぎ、うるさい!菅原くんっていう最高のお手本がいるんだから、チームメイトとのコミュニケーションをちゃんと取りなさい!翔ちゃんに言ってることを他のメンバーにも言えないと、司令塔とは言えないわ!トスも、成功率が高いからって東峰くんと田中くんに集中しすぎよ」

「ウ、ウス…」

「優羽姉すげえ!影山にダメ出ししてる!」

「そういう翔ちゃんは速攻以外まるでダメね、ちゃんと鍛えなさい。もし私がサーブやスパイクで攻めるなら、間違いなく翔ちゃんがレシーブしてるところよ」

「ハ、ハイ…」

「総合的に見ると、攻撃パターンに熟練性もなければバリエーションもないから単調に感じられました。個々の実力が高いことは事実ですから、どんどん新しいことに挑戦して、武器を増やしてみてはどうかと思います。前回は私がいないところで及川が飛雄をスタメンで、なんて馬鹿な条件付けてたけど、そんなのなくても私たちはいつでも練習試合大歓迎ですから」


そこまで言ったところで、勢い良く体育館の扉が開け放たれた。

「優羽!!」

「…げ」

「大王様!?」

姿を見せた及川に、優羽や影山は一気に顔を顰め、日向もヒィッと怯えた反応を見せた。肩で息をする及川は、乱雑に靴を脱いで優羽へ歩み寄る。


「なんで私がここに居るって分かったの」

「まっつんが、言っ、てた」

「あー、そういや松川には言ったかも」

「なんで!教えてくんなかったのさ!今日!映画見に行こうって言ったじゃん!」

「あんたに教える義理なんてないし、映画も行くとは言ってない」

淡々と返す優羽の切り返しに、菅原が小気味好いなー、と笑う。

「じゃあうるさいの来ちゃったんで、私帰ります。言いたかったことはさっきので以上ですから。じゃあまた!」


及川に引きずられるような姿勢の優羽は、去り際に清水に紙切れを握らせてから体育館を後にした。









「清水、なにもらったの?」

帰り道に菅原が問うと、清水はブレザーのポケットに入れていたそれをごそごそと取り出した。

「クッキー、と、連絡先…だと思う」

紙切れに書かれていたのは「ID→」の後に続いた短い文字の羅列で、今や誰もが利用するSNSの検索IDであることはすぐに想像がついた。

「練習中結構話してたもんな、仲良くなれた?」

「うん、少ししか話せなかったけど…やっぱりすごいなって思ったよ」

「だな。俺も頑張ろう」

「顔に出ないように?」

そう意地悪く笑った清水の笑顔にときめいた心を押しつぶすように、菅原はくしゃりと笑った。



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