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賢いカノジョ 3


第二セット半ば、青城がタイムアウトを取った。

「TO取るの遅れてごめんなさい!
ちょっとびっくりしちゃって!」

「そりゃびっくりするよな、なんだあの速攻」

慌てて殴り書いたルーズリーフをバインダーに挟み、##は監督の隣に並んだ。

「まさかあんな無茶ぶりトスに合わせられるなんて…」

「いや…それはちょっと違うよ、金田一」

「影山がスパイカーに合わせてるな、特にあの小柄の5番には」

優羽の否定の言葉に続けるようにそう言ったのは入畑監督だった。

「ですね、それも精度が恐ろしく高い。…日向、目瞑ってました」

「はぁ!?」

岩泉の驚いた声に、私も自分で言ってて信じらんないよ、と優羽は笑った。






タイムアウトが終わり、パイプ椅子に腰を落ち着けた入畑監督の両脇に優羽と溝口が立つ。

「凄いですね影山…」

視線はコートに向けたまま、なにか恐ろしいものでも見るかのように苦笑した溝口が監督に声をかけた。

「やっぱウチで獲れなかったのは痛かったですね…声はかけてたんですよね?」

「うん…でも、影山がウチに来たからと言ってあんな風なプレーをしてくれたかはわからないよ」

「え?」

「烏野だったから…

あの5番が居たからこその、今の影山なのかもしれない。

なあ、日向?」

「ふふ、そうですねえ」

「日向が影山に声を掛けるのを渋っていたのはこの為かな?」

脇に立つ優羽を横目で見上げた入畑に、優羽は抱えていたバインダーを胸に引き寄せてふふふ、と笑った。

「飛雄が青城に来てもきっと北一の二の舞だったろうな、とは思ってます。うちは良くも悪くも徹の影響が大きいもんだから、その下で飛雄があの才能を開花させられるとは思えませんでしたし…その前に、うちじゃコートにも立てなかったと思いますよ、北一引退の頃の飛雄は」

「日向の従兄弟に変えられたか」

「敵ながら、良いコンビになればいいと思ってますよ、正直。今はやっかいな敵ですけど」

溝口の言葉に微笑んだ優羽は、日向の翻弄によってブロックが振られまくっている様子をいささか楽しそうに眺めていた。

「優羽の言うように、他のメンバーも決して弱くはないようだね」

「そうですね…一年生の月島くんも、伸びしろがありそうでやっかいです」

ついに2セット目を烏野に奪われたことで、こちらの雰囲気は良いものとは言えなくなってしまった。

ぞろぞろとベンチに戻ってくるメンバーにいそいでドリンクとタオルを渡して行く優羽は、渡し終えるや否やバインダーを引っつかんで監督の隣に並んだ。

監督とコーチが順に講評を述べたところで、いつも通りに##にお鉢が回ってきた。

「さて、優羽からは?」

「はい。先ほど連絡がありまして、そろそろ馬鹿主将がこちらに到着するそうです。どうせまともにアップしてないでしょうから、させてからコートに入れます。おそらくピンチサーバーくらいには使えるかと」

「大丈夫なのか」

岩泉の心配の色をにじませた声に優羽は、本人の前でもそうやって心配してあげればいいのに、と思ったところでそれは自分もか、と言う考えに至り少し苦笑した。

「通常練習には支障ないらしいだけど、今日このあと様子見ておくつもりよ。

それで、試合の方だけど…

あのわけのわからない速攻に関しては、まだ未完成な部分が多い分、まだ穴が多いね。ブロック付くな、諦めろ、とは言わないわ。できる限り食らいつきましょう。うちのブロックだって弱くない。ただし事実、打たれた時は高確率で決められてるわけから、できる限りレシーブでも対応できるよう、渡中心に下をしめていくこと。あの子はまだ飛んでただ腕を振り下ろしてるだけ。ストレートとかインコースは打てないはずだから、コースの見切りはそう難しくないはずよ。
それからスパイクに関しては、特に高さのある6番ブロッカーに注意だね。でも高さはあれどパワーはそこまでないから、押し切るのも不可能じゃないと思う。でも、飛雄と1番がきて三枚になったら、さっさと見切りつけてリバウンドに持ち込むのも一つの手だよ。もちろん抜けるものなら抜く以上のことはないけど。

こんなもんかな。初めてのタイプのチームだから大変だけど、あなた達はちゃんと実力ある青城のレギュラーよ、自信持って沈めに行ってきてください」

「「「「ウス!!!」」」」




大きな声の返事と共に、メンバーはコートへと入って行った。再び椅子に腰掛けた入畑の脇に立つ優羽は、たかだか練習試合にも関わらず思わぬ展開を見せた戦況に興奮を露わにしていた。


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