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賢いカノジョ 15

「…なに」

「今ここで優羽のこと逃がしたら、一生後悔すると思った」

「…ふうん」

抵抗しなかった優羽に、及川は内心驚いていた。

静かに話を聞いてくれる優羽に、誠意を示そうと包み隠さず全て話した。人として最低なことも、全て言った。殴られて、詰られて、嫌われても良い、いっそ殴ってくれと願いながら話したというのに、彼女は自分の思っているところとはまた別のところに怒りを感じているようだった。

昔から一枚上手な優羽の考えることは、及川をいつも驚かせる。
しかし及川も馬鹿ではないから、ヒントが与えられればいつだってすぐに理解するのだ。
今優羽は本心からの及川の言葉を、本当の望みを聞きたいと言っている。そうとわかれば、及川の取るべき行動は一つだった。



「俺が望むのは優羽だ」

腕の中にすっぽりと収まる華奢や肩が小さく揺れる。何度も直接触れて抱いてきたはずなのに、この布越し感触にでさえ、いつまでも緊張させられる。自分の世界において最も尊く、愛しい存在。

「優羽に、愛されたい。俺よりも俺のことを理解してる優羽に、甘えていたい。甘やかされたい。でもたまには俺が甘やかして、幸せな顔で笑って欲しい。できればその顔を俺だけに見せていて欲しい。俺で頭の中いっぱいにして欲しい。俺しか考えられなくなって欲しい。もちろん俺は優羽のことしか考えてないよ。知ってるように、俺って性格悪いから、優羽が幸せならそれで良いとか、笑ってくれればそれで良いとか、本当は全っ然思ってない。優羽が他の男と楽しそうに話してたらそれだけでもうめちゃくちゃ嫌。岩ちゃんでも嫌。もはや女子相手でも嫌。不幸な目にあって優羽もろとも傷ついて、そんな傷ついた##を優しく癒して俺に惚れれば良いと常日頃思ってる。ごめん。でも優羽、お願い。俺のものになって。

俺だけを愛して」

言い切って、抱きしめていた肩を一層強く抱きしめる。肩口に額を埋めて譫言のように好きだよ、と呟いた。

「…重い男ね」

「…ごめん」

「…言うのが遅いのよ、いつもいつも」

そう言って、優羽は抱きしめていた及川の腕を優しく掴んでほどいた。
身体を反転させて、至近距離で向き合う。

「徹は策略家で、頭も良いから、周りから固めて私を自分に惚れさせようとしてたのかもしれないけれど。
あなたはそんなに器用じゃないわ。特に、私に関しては」

「…そうみたいだね」

「言いたいことはそれで全部?」

「…最後にもう一個」

「どうぞ?」



「俺の…恋人になってください」



そう言われることが分かっていたかのように、驚くこともなく及川の言葉を受け止めて、そしてふわりと笑った優羽に、及川はもう死んでも良いと本気で思った。








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