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賢いカノジョ 13

始まりは、ほとんど衝動だった。
自分が即答で蹴った白鳥沢からの推薦が幼馴染でありかけがえのない女の子である優羽にも来ていると聞いた。

顧問もまさかマネージャーを欲しがるとはな、と笑っていたが、俺には笑いごとではまったくなかった。


彼女は多分、天才なんだと思う。もし男だったら、幼馴染として仲良くできていたかどうかも危うい。情報収集力と洞察力、推理力、戦略センス、どれを取っても一級だった。俺もそういうの考えるのは結構好きで、また俺たちは二人とも少しひねくれた性格をしていたものだから、意地の悪い作戦を立てては相手の悔しがる顔を見て、いたずらっ子のように二人で笑った。

そんな優羽が好きだった。ひねくれてても、俺とは違ってどこまでも天真爛漫で、ふわりとした笑顔は万人を惹きつける。どうかその笑顔が俺だけに向いてはくれないものかと、きっと、物心ついた時から思っていた。泣き虫だった俺を叱咤する岩ちゃん、それを見てケラケラ笑う優羽。その時にはすでにゆう##以上に魅力的な女性などいないと信じて疑っていなかった。小学校でも中学でも、もちろん高校でも男女問わず優羽は愛された。そしてそれは間違いなく、牛若すらも惑わすものだったのだ。



まさに居てもたっても居られないという心地だったが、やはり当時の俺もずる賢い生き物だった。どうにかして優羽を自分に縛りつけようと目論んだ。そしてそれを都合良く、自分の欲望に結びつけたのだ。





ねえ優羽、知ってる?
最近の中学三年生ってさ、半分くらいが処女も童貞も卒業してるんだって




思えばあの時にちゃんと告白して彼氏彼女のそれになってしまえば、ここまでこじれることはなかったのだ。やるだけやって、初めての経験を二人でいっぱいいっぱいになりながらやり通して、それから。

何がどう転んだか、俺たちは立派なセフレという関係になってしまった。

どうにかしたくて、優羽に告白されたことを話して反応を伺っても、「へえ、あの子可愛いじゃん、付き合えば?」と気の無い返事。そっちがその気なら、と本当に付き合えば、長続きさせなさいよ、と応援のお言葉。互いが互いに素直じゃないから、こういうことになった。


そして先に音を上げたのは俺の方だった。そうやって出来た彼女と行為に及んでも、勃ちはすれど全然楽しくない。射精はそりゃ気持ち良いけど、でもなんか物足りない。半ば無理やり優羽を求めて身体を重ねれば、最高に気持ちが良かった。彼女いるくせに最低、と詰られても、その快楽を求めずにはいられなかった。俺なしじゃダメな身体にしてしまおうと目論んだというのに、ミイラ取りがミイラになってしまったような気分だ。俺が優羽なしじゃダメな身体になってしまった。


身も心も優羽に囚われたまま高校生になり、相変わらず優羽は普段も、身体を重ねる時も、俺の思い通りにはなってくれなかった。

しかし確実に、変化はあったのだ。
たまに、本当にたまに、俺を見る視線が妙に色っぽいことがある。それは情事の最中であったり、部活中、試合中であったり、様々だ。気付いて目を向ければすぐにそっぽを向かれてしまうし、指摘すれば意地でも2度としてくれないだろうから言わなかったけれど、その視線はたまらなく俺を幸せにした。

きっと優羽も、俺のことが。

それさえ分かれば、もう迷いはなかった。優羽の言葉をひたすらに待った。
きっといつか話してくれる。
「自分を見ろ」と。「自分だけを愛せ」と。言ってくれる。その時は。




高校二年になったあたりからか、俺はもはやほとんど無意識的に最中「愛してる」と囁くことが増えた。
初めて言った時は少し驚いていたけれど、すぐにその時の彼女と自分を重ねてるんだろうとかそんな解釈に落ち着かれて、すぐに動じられなくなった。

好きだ、と。愛している、と。最中になら言っても優羽は離れていかないのだと味を占めて、俺はベッドの中では優羽の恋人になれたような気分だった。もちろん、その言葉に返事はなかったけれど。
なんだかんだ口では嫌だと言っていても最後はなし崩し的に受け入れてくれるし、最低だと俺を罵りながらも、多分優羽は優羽でセックスを楽しんでいる。そんなところからも、優羽からの愛を感じていた。


これは自惚れなんかじゃないんだ。
きっと、優羽も。




俺のミスは、それを欲しがったことである。優羽からの言葉を。
優羽に求められたいと。それまでは自分から言わない、と。鍵のようにがっちりと固定されたその意地が、今の優羽と俺の関係の原因なのである。














次の日、優羽は徹底的に俺を避けるようになっていた。


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bkm
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