11
賢いカノジョ 11

「ネタは上がってんだよ日向ァ…」

「いや、何キャラだよ」

「牛若と!デート!!してたんでしょ!?めっちゃくちゃおしゃれして!牛若に荷物持ちさせて!」

「は!?なんで知ってんの!!ていうかデートじゃないよ、たまたま会っただけ!あと声がでかい!」

引退して朝練がない生徒がほとんどの三年だが、せっかく身についた早起きの習慣はそのまま授業前の自習タイムとして活かされており、優羽も大学が決まったとはいえ少し早く来ては、同じく部活を終えたクラスの女子と共に朝の時間を過ごしていた。

全員が教室に集まっているわけではないため多少騒いでも迷惑にはならないが、かといって人がいないわけではない。たとえば、少し離れた席に座る元男子バレー部レギュラー陣など。

案の定クラスメイトの言葉は丸々彼らにも届いていたらしく、彼らはばっちり優羽達を見ていた。


「えーと、引退した途端宿敵落とすとかさすがッスね、姉さん」

「話をややこしくしないで花巻!!」

ポカンとした間抜け面で優羽を見る及川と、その隣であからさまに表情を歪める岩泉。面倒なことになったと、優羽は頭を抱えた。









「で?牛若のあれは結局なんだったわけさ」

昼休み。

にやにやしながら優羽に問う花巻に、こいつも大概良い性格してるよな、と思いつつ優羽は呆れたように答えた。この昼休みに至るまでに、どこから情報を拾ったのか牛若を知る人々にことごとく付き合ったのかと問われ続けていた。

「何ってほどでもないの。買い物したくて出掛けたらたまたま牛若に遭遇して、シューズ選びに付き合って欲しいって頼まれて。暇だったから付いてったらお礼にケーキ奢ってくれたってだけ」

これも今までいろんな人に言い続けた言葉で、覆しようのない事実である。

「みんなが面白がり過ぎなのよ。私と牛若が二人で歩いてたらそんなにおかしい?」

「おかしいよ!!!!」

「徹は黙って」

「ひどい!」

「まあ、お前にとっちゃあそんな程度のもんかもしれんけど…」

唐揚げをもさもさと頬張りながら松川が言った。

「うん、はたから見りゃデートだなそれは」

「…なんで一人で買い物なんか行ったの。俺に声もかけずに」

「徹と行ったら目立つから嫌。それに昨日は猛のお守り頼まれてて家から出られないって言ってたじゃん」

「でも言われてたら行った!」

「うそつけ」

「嘘じゃないー!」


弁当の後のパンを食べながらきゃんきゃんと吠える及川に、なんだ案外怒ってないか、と優羽は内心拍子抜けした。
まあデートしたわけでもない上に及川と付き合っているわけでもないので、怒られる筋合いはないのだが。






その日及川はクリスマス前恒例とも言える告白のお呼び出しを受けていたので、待っててという言いつけを華麗にスルーして優羽と岩泉は二人帰路についていた。

「で?なんか成果はあったのか?」

「!

…っあーー!もう、さっすが岩ちゃん、あんただけだよ私の心を読み取ってくれるのは」

「お前が岩ちゃん言うな」

軽い手刀をかました岩泉は、満更でもない様子で、「で?」と先を促した。

「うん、牛若今どんなシューズ使ってんのかなーと思ってたんだけどさ。
あいつ生意気にも特注だった」

「高校生のくせに…」

「ほんとだよ。ケタ狂っててお会計の様子直視できなかった」

「ははは!やっぱ世界のウシワカはちげえな」

「まったくだね。何回もJAPANっつってからかってやったわ」

「まあそんなことだろうと思ったよ。お前の好きなやつはウシワカじゃねえもんな?」

「…うっさい」

岩泉がにやにやしながら少し屈んで優羽の表情を窺えば、優羽は少し顔を赤らめてふい、とそっぽを向いた。

「ったく、良い加減くっつけお前らは」

「だって私は徹にとってそういう対象じゃないもん」

「…ふーん?じゃあどういう対象なんだよ?」

「……見た目がいい幼馴染」

「自分で見た目がいい言うな」

性欲処理、とはとても言えずにふざけて濁せば、また岩泉は手刀をかましてきた。

「でも実際そんなもんでしょ。徹はあんな性格だから本心曝け出してる相手は少ないし。私と一のことは絶対離したくないんじゃない?親離れできない子供とおんなじよ」

「俺はともかくとして、確かにあいつはお前に対してはやたら執着してるもんな」

「何言ってんの、私から見れば一に対しても相当よ。ホモなんじゃない?」

「やめてくれ気持ちわりい」

からかえば心底嫌そうな顔をするものだから、優羽はケラケラと笑った。

この男らしい幼馴染に恋心がバレてしまったのは中学の頃、まだこんな身体だけの関係を持つようになる前のことだった。

自身の恋心に気づいたばかりでまだ立ち回りが上手くなかった頃で、すぐに彼女を作っては優羽と岩泉に自慢し、別れたら別れたで二人に泣きつきにくる、そんな日常をキツいな、と顔を顰めて見ていたのを岩泉に見られていた。自分に好意を寄せてくる女子のことは全くわからない癖に、どうしてこんなところで勘が良いのかと驚いたものである。

それからも岩泉は特別応援するわけでも、しないわけでもなく、優羽が辛そうにしている時にそっと側にいるようにしていた。
一に惚れれば良かったな、と何度も思い、しかしなんとなくそれを口にしてはいけない気がして、優羽は岩泉に黙って甘やかされた。

今日及川が告白を受けていることは周知の事実で、たしか今及川には彼女がいなかったから、おそらくOKするだろうと思われる。また付き合っただのなんだのと騒がれて、それでも気まぐれに身体に触れられるのかと思うと、気が重くなった。
何にってもちろん、それを心から嫌がることのできない自分に対して、である。

そんなことを知ってか知らずか、また岩泉はこうして黙って隣を歩くのだった。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -