賢いカノジョ 9
今日、長いようで短かった、バレー人生が終わりを告げた。
春高予選敗退。
最後まで、青城は、及川は、岩泉は、優羽は、オレンジコートに立つ夢を果たすことは叶わなかった。
「中学の時と一緒だね」
「何が?」
試合が終わり、敗北した悔しさに涙を流す部員達の肩や頭を、優羽はただ静かに撫でていた。
「そうやって、俺たちの前では泣かないの」
及川の言葉に優羽は驚いたように少し目を見開いてから、苦笑した。
「私、泣き顔綺麗じゃないんだもん。部員達に見せて引かれたくないわ」
「えー、そんな理由?」
ひとしきり泣いて、簡単なMTを終えて、及川と岩泉と#ぬう#は、三人ならんで帰り道を歩いていた。
「それに、私が泣いたら徹と一、飛んでくるでしょう?」
「そりゃあな」
「大事な姫が泣いてるんだもん、ほったらかすわけないじゃん」
同時に即答する二人に優羽はくすくすと笑って、だからよ、と言った。
「一番頑張った2人にはちゃんと、自分の努力を思って泣き尽くして欲しかったの。私なんかに気を回して欲しくなかったのよ」
そう言うと、これまた2人は同時に深く溜息をついた。
「何言っちゃってるのかなー、この子は」
「まったくだ」
「何よ?」
「お前だって、一番頑張ってたよ」
そう言って岩泉は優羽の頭をわしわしと撫でた。
「俺たちのために、ありがとう。最高の幼馴染で、最高のアナリストだったよ」
及川は優羽の背中をさするように手を回した。
「なんで、そうやって、泣かせようとするかなあ…」
「きたねえ泣き顔も、俺らなら見せても良いだろ」
「そうそう、オネショした優羽だって知ってる俺たちなんだから」
「ぅ…おねしょは、余計…っうう、うわあーーー」
優羽は言葉を詰まらせて、決壊したように大粒の涙を零した。
「くやしい!!最後まで、最後まで徹たちを全国連れて行ってあげられなかった!もっと、もっとできたこと、あった、はずなのに!悔しいよーーーー!うわああーーー!」
くしゃくしゃに顔を歪めて泣く優羽を、及川と岩泉はよしよし、と撫でた。その涙は、流せなかった中学の分も含めた、六年分の涙のようだった。
「俺たちだってそうだ。優羽を、全国に…俺たちが、連れて行ってあげたかった」
「俺だって、お前の頭脳と、こいつのトスで、全国…行きたかった…っ」
それからは、道端で一目もはばからずわんわん泣いて、落ち着きを取り戻したところでここが田舎でよかったと心底ほっとした。
そして、また三人ならんで帰路に着く。今日は優羽の親も仕事が休みで及川の家にいる。試合の日は決まって及川の家で焼肉なのは、小学校の頃から変わらない決定事項だ。
真っ赤に腫らした目を隠すこともなく、三人は大きな声でただいま、と言い、美味しい匂いの漂う家へ入って行った。