隣の奥村くん
隣の席の奥村くんは、入学以降度々教室から消える。

普通科と言えど名門の正十字学園に在籍する以上、スポーツ特待生でも無い限り勉学を軸として生活していくことはもはや暗黙の了解。
そのことに関して私はまったく例外ではなく、学園では勉学に励む有意義な高校生生活を送ろうとしていた。

それなのにこの事態。


「…ちょっと…?」

「と…友達になってくれねえか!!」

学校の屋上なんて初めて入った。
そこに当たり前のように寝っ転がっていた不良男に、両手を掴まれて嘆願されるだなんて。




ことは今日の最後の授業が終了の鐘を告げた頃に遡る。

「お願い柳さん!!」

「嫌です」

「どうして!」

「他の人に頼めば良いじゃないですか。よりによってなんで私…」

「だってほら、男の子だと喧嘩になっちゃうかもしれないじゃない?さすがに奥村くんでもか弱い女の子に手を上げるような真似はしないだろうし…

それにほら、お隣さんじゃない?」

私の隣にたたずんでいる中身の詰まっていない机を指差して、可愛らしくウインクをするこの女教師は随分必死だ。その様子をみると、女が良いなら先生が行けば良いじゃないですか、などとはさすがに言えない。恐らくなにかあったのだろう。

「…このプリント、届けるだけで良いんですよね?」

「あぁ!行ってくれるのね!!ありがとう柳さん!」

ちゃっかり参考書一冊分の報酬を約束し、私は指定された校舎の屋上に向かったのだ。
そしてこの顛末。


「俺、双子の弟が居るから学校サボってもプリントとか弟が持って帰って来ててからさ、こう、クラスメイトに届けてもらうみたいなこと無くて…」

彼の弟の存在はよく知っている。何を隠そう今年の入学式で新入生代表となった、つまり入試トップ合格を果たした人物だからだ。

ルックスも手伝って女子生徒の間では浮ついた意味で話題になっているようだが、私の中でもなかなか隅に置けない人物である。もちろん勉強的な意味で。

「はぁ、それで…?」

「だ、だから俺、こうやってプリント届けてもらうの嬉しくて!お前柳だろ?隣の席の!なあ、友達になってくれよ!」

「…別に、構わないけど」

なぜここまで彼が興奮しているのか分からないが、友人なんてもの、居ても居なくても大差はない。

「まじでか!俺、奥村燐!よろしくな!」



大差はない、と思っていた。


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