to.唯さま

ボスッ

「おっ…と」

突然背中に感じた衝撃の元は、肩に乗った頭を見て理解した。


「…久しぶりね雪男」

天才ともてはやされる年下の恋人は、今回もしばらくは離れてくれなさそうだ。





「遠征お疲れ様」

「この体勢はとても遠征帰りの恋人を労わっているようには見えないわね?」

「ずっと会いたかったんだ、充電くらいさせてよ」

本部勤務の私は度々発展途上国等、支部の設置されていない地域へ遠征に向かう。
今回は中東を中心とした大規模な長期遠征で、本部に帰還という形で戻ってきたのは実に二年ぶりだった。
まぁその間にも何度か雪男とは顔を合わせてはいたのだが。
騎士団の代名詞とも呼べる鍵の存在は、遠征の合間を縫って雪男と会うたびにありがたいと実感させられた。

まだ16歳にも満たない少年は、本部の私の自室に着くまでも着いてからも、片時も腕を緩めてはくれなかった。

「充電はご自由にしてくれたらいいけど…ここ、私の個人部屋じゃないのよ?同室の子が来たらどうするの」

やや意識して雪男の耳元で艶っぽく言うと、少し離れてくれた。
こういう扱いやすさは可愛くて癖になる。

「なんか…僕ばっかり会いたかったみたいだ」

こうやって拗ねるところも。

「会いたくなかったらただでさえお互いにハードなスケジュールなのに融通効かせてまでこうやって会ったりしないでしょう?」

額同士をこつんと付き合わせて両手を握る。

「僕だってそれくらい分かってるけど…」

まだ続きそうな言葉を遮って、唇で唇を塞いだ。
瞼を閉じていても、向こうで雪男の顔が驚いていることは明白だ。

はなれるタイミングで少しだけ雪男の唇をちろ、と舐めてみる。

「会いたかったわ、雪男…愛してる。



…こうしてほしかった?」

いたずらっぽく笑うと、雪男は顔を真っ赤にして黙り込んだ。唇は少し動いているので黙り込んだ、というよりは言葉にならない、という方が的確かもしれない。

しばらくしてからガバッと私に抱き着いてきた。

「…人が来たらどうするのって言ったのはありがとうございましたの方なのに」

「あら、私は別に見られたって、最悪写メられたって構わないもの。恋人の可愛い姿が不特定多数の人の目に晒されるのは不本意だけど、同時に自慢もできるわ」

「…ずるい」

いつも私の掌で転がされてくれる愛しい恋人。

どうせ彼は私には敵わない、なんて思っているのかも知れないけれど、どちらかというと敵わないのは私の方だ。

少年にしては背負うものの多すぎる彼の本心が見たくて、硬派な仮面を崩したくて近づけば、私の前だけで見せる甘えん坊な一面が出来上がった。
いつも強気で冷静に見せてる天才少年が私の前だけで仮面を取る。
これ以上のギャップがあってなるものか。



私の胸に顔をうずめる雪男の頭を抱きかかえるように両腕で包んで撫でると、雪男は小さな声でキスは僕からしたかった、と呟いた。

可愛いなあもう。



強くて苦労人の私の年下の恋人は、その実たまらなく可愛くて甘えただ。

次会えるのがいつになるのかわからない、時には世界規模の遠距離恋愛をする私達は、こうしてわずかな時間で愛に溶けるのだ。


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bkm
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