ずっと。転生したと気づいた時から…、ある可能性について考えていた。私という異分子が今もこうして存在しているのだから、”私以外の異分子”がこの世界に存在している可能性も否定できないのではないか と。ひいては『小鳥遊 新奈』という少女も、私と同じ別世界からやってきた人間ではないのかという疑念。

でもそんなの、証明しようがない。本人が暴露してくれるのであれば話は別だが、そんな電波じみたことを言うほど彼女もバカではない。だからこの仮定の正否も含め、彼女の身辺や過去について調べる必要があった。しかし結果としてわかったのは、小さい頃に両親を事故で亡くしたということと、大森小学校というところに在籍していたということぐらい。大したものは得られなかった。

「小鳥遊さんは、自分の過去についてほとんど話しません。彼女がそれを意図してやっているのであるならば。過去を言わない・・・・のではなく、言えない・・・・事情を抱えているのであれば、何かしらの問題があると考えるのが妥当です。まぁその過去の、何が問題だったのかまではわかりませんでしたけどね」

彼に話せる内容は、このあたりが限界だろう。これ以上はこっちの秘密が悟られかねない。緊張と喋りすぎで乾いたのどを潤すため、私は残った麦茶を飲みほした。



しばらくの沈黙ののち、黙って話を聞いていた男がようやく口を開く。

「そこまでわかっているとは たいした奴だな」
「よく言いますよ。沢田まで使ってわざと情報を流したのはあなたでしょうに」

呆れたようにそう言えば、男が帽子の下で笑ったような気がした。

「ハナコの推察どーりだぞ。”ほぼ”正解といっていい」
「……というと?」
「きになるか?」
「……。まぁ…。」

クイっとあげた帽子から、何かをたくらむ様な表情がこちらを向いた。……嫌な予感。

「ツナのファミリーになるなら教え「あ、やっぱり教えていただかなくて結構です」
「まだ最後まで言ってねえ」

当たり前だ。確かに、小鳥遊さんの情報は欲しい。けれどわざわざ自分の身を危険においてまで得るべきものではない。そもそもは自身の安全を確保するための情報収集だったのだから、それでは本末転倒になってしまう。というか、私のことはそうあっさり信用していいのか。

「おめーの素性は案外すんなり入手できたしな」
「さらっと人の心読むのやめてもらえます?」
「洞察力もあるし機転もきく。瞬発力も悪くねえ」
「無視ですか」
「じゃねーとあの瞬間、ボムの直撃をとっさに避けるなんてまねできねぇ。オレ達やニーナを警戒しだしたのもその頃からだろ」
「………。」

本当に…、いやな人。疑問形じゃなくて確信をもって言っているあたりが特に。もしかしたら彼は、こちらがまだ隠し事をしているということにも、薄々気づいているのかもしれない。……けれど、

「だったら話が早いのでは?」
「……。いっとくがオレは諦める気ねーぞ」
「だとしても。だとしてもお断りです」

今度は相手の目を はっきりとみて答える。

「ご存知の通り、私は一般人・・・ですので、マフィアやらヒットマンやら…裏社会の知識なんてほとんどありません。けれど彼らが生きていくであろうその世界が、いつ死んでもおかしくない危険な場所だってことくらいは理解しています。私には、そんな世界に飛び込む理由も、ましてや覚悟もない」

これは、私ひとりだけの問題じゃない。私の家族、知人、…そして彼らにとっても。

「ですからお断りです」

これが、今の私にできる精一杯の抵抗だ。


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