04:殺し屋は意外とよく笑う




“ケガの詫び”事案も片づけた。お互い、家も連絡先も知らない。休日にばったり出くわした経験もないし、今後会う予定もない。だから少なくとも、この夏休み中に彼らと接触することはないだろう。そうタカをくくっていたのだが…。


「ちゃおっす」

まさか単身で乗り込まれるとは―。
部屋の中でちょこんとたたずむ赤ん坊に、軽くめまいを起こす。

「…もしかして鍵かかってなかった?」
「いいや。施錠はばっちりだったぞ」
「……。」

つまり不正の合鍵かピッキングで入ってきたと…。
さらっと言いのけた男に今度こそ頭を抱えた。この調子なら、部屋に盗聴器やカメラが仕込まれててもおかしくはない。嫌な考えに ここ最近の行動を反射的に思い返す。

「安心しろ。んな ちゃちな小細工はしてねぇ」
「…………読心術」

どうやらもう、 下手な演技やごまかしは意味をなさないようだ。右手に持っていた荷物を床の上に置き、開けたままでいた玄関をガチャリとしめる。こんなことになるのなら軽率に家を空けるんじゃなかったなぁ。もう遅いけど。


――――――
―――



タイトル【玄関あけたらやつがいた】。もし今日の出来事を日記か何かにまとめるとしたら、私はきっとそんな題名をつけるに違いない。近くのコンビニで買ってきたペットボトル飲料を冷蔵庫にしまいながら、数分前の自分の行動を後悔する。

「とりあえず何か飲む?」
「気が利くな。エスプレッソコーヒーでたのむぞ」
「…。ないので麦茶、入れますね」

コップに注いだ麦茶をテーブルの上に置き、おとなしく彼の正面の席へと座る。この家には今、私と彼の2人だけ。父も母も働きに出ていて もうしばらくは帰ってこない。そのことを知っていて、彼は今日ここへ来たのだろう。


「単刀直入にきくぞ。お前、オレ達についてどこまで知っている?」
「………それはいったい、どうゆう意味で?」

緊張を和らげるように、お茶を一口含んでからそう答える。相手が相手なだけに、あまり余計なことは話たくない。そのためにも、彼の質問の意図をよく理解しなくてはならないからだ。

「おめーが思った通りの意味で だ」

そう返事をした彼に、そういう曖昧・・な答えが一番困るんだけどな…と思いつつも、意外にも優しいと感じたその対応に少しだけ頭を悩ませた。おそらく、この場で嘘は通用しないであろう。けれど馬鹿正直にすべてを話すわけにもいかない。再びお茶を一口啜り、どう答えようかと思案する。

「そう、ですね…。まずあなたが、単なる赤ん坊なんかではなく、かなり腕の立つ、沢田綱吉の指導者であるということ。そして沢田は……本人は拒んでいますが、ボンゴレというマフィアの10代目ボスの座につく人間であるということ。獄寺隼人、山本武はその部下ってところでしょうか。山本はあんな性格なので、本当の意味では分かっていないみたいですけど」

こんなところですかね、と当たり障りなく嘘のない最低限の言葉で話を進める。

「…それだけか?」
「私の思った通りの意味 で、構わないんでしょう?」

そう言って軽く目線を合わせれば、彼はニッと笑みを浮かべた。やだ怖い。

「ニーナについては言わねーんだな」
「小鳥遊さんは―」

そこまで言って言葉に詰まる。…なるほど。彼が本当に聞き出したかったのはこちらだったか。目の前でさらに笑みをふかめたヒットマンに内心舌打ちがこぼれた。

「小鳥遊さんは―、あなたたちボンゴレのお仲間ではないと思ったので」
「理由は?」
「以前病院で、試験の結果は保留だとあなた方が言っていたのを聞いていましたから」
「それだけじゃねぇはずだぞ」
「…………わかっててわざわざ聞くんですか?」
「お前の口から聞きてーからな」
「…なんて意地の悪い」

いつの間にか力を込めていた眉間を指で覆い、テーブルに肘をつける。

「理由なんて、あなたが一番よくわかってるじゃないですか。他ならぬあなたが、彼女を…。『小鳥遊 新奈』をボンゴレから遠ざけようしているんですから」

ため息交じりに出たその言葉は、けして大きな声ではなかったが、静かなこの空間ではよく響いたように聞こえた。

「要因は…おそらく2つ。ひとつは、彼女の『完全記憶能力』を危惧して。その異常なまでの記憶力は、味方である分には心強いが裏切られた際の損失は計り知れない。ましてや未来のボスとその側近の情報などかなり機密性が高い。だからこそ折れることのない忠誠心、信頼足りえるだけの理由が求められる。……けれど彼女は、その条件を満たせていなかった。それ故あなたは、”試験”で彼女を保留とした」

ちらりと男の顔をうかがうも、その表情は帽子の陰に覆われていて こちらからはよくみえない。

「そしてその信頼足りえなかった原因。それこそが彼女を警戒している一番の理由…」

ここからは完全なる私の妄想だ。何の確証もない。だけどもし、彼女がそう・・であるのなら―。

「彼女の“過去”。それがふたつめの要因です」


[prev] 目次 [next]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -