私だけが知っているこの人がある
秀麗→主人公要素ありなので、苦手な方は注意










私は素敵な人と出会った。
その人は物腰の柔らかい、それでいて掴めない人だった。
静蘭の話では、朝廷では放蕩息子と名高くいつもだらだらとやる気がないということだった。実際、私も花街の噂や胡蝶姐さんの話で遊び歩いている人だと聞き知っていた。だが、会ってみてその印象は見事に打ち砕かれた。
流れるような所作に、所々見え隠れする聡明さ。この人は『自分』というものを演じているのだと気が付いた。一族の殆どが官吏で、あの人が官吏になったのも謂わば宿命。辛い思いをしてきたのだろう。
放蕩息子を演じることで、過剰な期待をされずにすむとあの人は考えたのではなかろうか。その結果の行動なのだろう。
本人曰く、仕事もきちんとこなしているというのに放蕩息子という噂が絶えないのは、本人の行動言動にも理由があるのだろう。休みの日は必ず女の子と遊んでいるという(仕事をきちっと終わらせるのも女の子と遊びたいからだという憶測が飛び交っている)し、朝食も夕食も女の子の手料理だというし、お弁当は毎日違う女の子が届けに来る。ただ、食欲へのこだわりは薄いのか、燕青にせがまれても簡単にあげてしまうし、手を付けなかったりする。夕方、お弁当を届けた女の子が迎えに来て感想と重箱を返す。そして一緒に帰るのが常套だ。
羨ましいと思う。あの人のもとに来る少女たちは皆一様に輝いて見える。だって彼女たちはみんなあの人に恋をしているのだから。
私は知っている。あの人がそんじょそこらの女じゃ本気にならないことを。本人から聞いたのだから。
胡蝶に次ぐと謡われたあの艶冶にすら本気にならなかったという。だから街娘などに本気になることは有り得ないと言えるだろう。
「秀麗さん?」
柔らかく穏やかに――まるで流水のように透明なその人は、顔を上げた。
「疲れているなら、ちゃんと仮眠室で寝てください!」
もしかして、気付かれただろうか。執務室で転寝をしていたこの人を、ずっと眺めたい事に。
うたた寝をしている姿にも気品が溢れていて、思わず見惚れてしまったのだ。
「嫌だなぁ秀麗さん、もしかして見惚れてました?」
「もう、冗談言ってないでさっさと仕事してください」
「はいはい」
呆れたように肩を竦めたこの人に赤面した。だって、そんな表情はあの少女たちの前では見せないもの。私だけが知っているこの人がある。
それは優越感だった。
「秀麗さん、ここって調理場はありますか?」
「え? ありますよ。でも余り使われてないみたいで」
「あればいいんです」
何をするのだろう。よっこらせと言って立ち上がるのを見て、「案内しましょうか?」と聞いた。お願いしますと言ったその人は、まだ座ったままの私に手を差し出した。さり気ない優しさに、この人がもてるのはこういう処なのかと納得してしまう。女なら誰だって嬉しく思うことを、自然にしてくれるのだ。
「料理でもするんですか?」
差し出された手を掴んで立ち上がると、足がもつれて倒れこんでしまった。
「おおっと、大丈夫ですか?」
「はい……すみません」
「気にしないでください。秀麗さんは気を張りすぎなんですよ」
怪我はないかと尋ねてくるあの人に、私は気恥ずかしくなって俯いた。
「実は料理が趣味なんですよ」
そういって笑ったから、私は恥ずかしさも忘れて「私もです」と答えた。






私だけが知っているこの人がある
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もう秀麗とくっつくのが幸せなんじゃないかと思う今日この頃。
秀麗→→→→→→主人公この主人公は女の子なら大抵可愛く(孫をみるような)見えてるから、秀麗にも恋愛的な興味なし。


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