だって、彼らは所詮キャラクターだもの
走る走る。走って隠れて撒いて、逃げ惑った。
教師すら予想していなかった。たまたま実習を行ったら、忍術学園と敵対する忍が居た。奴らは今ここで少しでも痛い目を見せられたらよかっただけなのだろう。所詮三年生。だからか、追ってはくるけれど、攻撃は手裏剣が避けられるギリギリを何度か飛んできただけだった。
もう逃げ回って、へとへとだった。仲間や先生ともはぐれてしまった。ろくに足も動かない。
追っ手が目の前に立ちはだかって、やられると思った瞬間、風が吹いた。

「大丈夫?」
「おまえ、は……」
雲幽。
姓は知らない。皆が姓を呼ばないからだ。このご時世だから、もしかしたら姓は無いのかもしれない。
辺りを見渡すと、敵は気絶しており、一番近い木の幹に括り付けられていた。これは雲幽がやったのだろうか。だとしたら、あの風は雲幽なのだろうか。
「ほら、行こう。皆お前が帰ってこないって心配してた」
「何で、分かったんだ?」
「何でって、決まってるよ。皆で探してたら偶然見つけただけだよ」
偶然?
そんなもので見つかるものか。長い時間走り回ったのに。
行こう、と差し出された手を振り払った。
「全く。仕方ないな」
雲幽は苦笑した。それが更に癪だった。コイツはいつもそうだ。大人振って、あほのは組の面倒を見てる。伊作だって留三郎だって、雲幽に懐いている。
雲幽は一見だらしないように見えるが、その実、何だかんだで伊作や留三郎たちの面倒を見ているのは雲幽だった。宿題を教えてやったり、夜中にトイレに付いて行ってやったり。
そんな雲幽にいつもイライラしてた。雲幽の周りはいつもは組で構成されてて、中々一人にならないものだから、このイライラをぶつけることも出来ず、同室の鍛練馬鹿に当たったりした。
「迷惑だ! 私は一人で帰れる!」
「そっか。分かった。私はこの人たちに聞くことがあるから、先行ってて」
雲幽はにっこりと笑った。
メチャクチャに走り回って、来た方角なんて分からないし、先生たちがどこに居るかなんて尚更分からない。何て意地悪なやつなんだろう。イライラした。
いつまでたっても向かわないからか、雲幽は「あっち」と指差した。
「言われなくても分かっている!」
「はいはい。早く行かないと日が暮れるよ」
「……お前は、行かないのか」
「聞きたいことがあるの。別に聞かなくてもいいけど、折角だから……。すぐに追い掛けるよ。もう敵もいないし」
刹那、雲幽の顔から表情が抜け落ちた。それは本当に一瞬のことだったから、見間違いだったかもしれない。いつもの締まりのない笑顔ではなく、色々な感情が混ざってしまったような無表情。
ぐっと唇を噛み締め、雲幽の指差した方へ走りだした。
怖かった。色んなモノを抱えているのだろう、雲幽が。そして、は組としか話さない雲幽が。例え普段はいがみ合っていても、いざとなれば助け合える仲間だと思っていたのに。


「お、立花くんじゃないか。久しぶり」
「何が久しぶりだ! 実習サボっただろう!」
「めんどいからねぇ。あ、留三郎が呼んでるから行くわ」
あれから、私と雲幽は立ち話程度ならする仲になった。しかし組が違うし、何より雲幽は出無精で有名だ。実習は出ないし、授業も平気でサボる。
気に入らないのが、成績は優秀なことだ。出席日数が少ないからは組なだけで、雲幽の成績なら、優秀な我がい組でも十分通用する。
そして相変わらずは組の面々は雲幽の傍をうろついている。目障りこの上ない。は組は結束も強い。だからかもしれないが、雲幽が一人で居るところを見たことがない。
「じゃあね」
そういってひらひらと手を振って、雲幽は留三郎の元に向かった。
唇を噛み締める。雲幽はあまり私たちと関わろうとしない。いや、六年は組以外と言うべきか。雲幽に助けられたから、会えば立ち話くらいはするようになったが、胸に中にはもやもやが消えることはない。
たたずんでいると、戻ってこないことを心配した文次郎が探しに来た。
「仙蔵、どうしたんだ」
「うるさい。文次郎には関係ない!」
「……とにかく、行かないと遅れるぞ」
分かっている。だが、感情は理性でそうそう抑えられるものではない。もやもやがイライラになって、体中をめぐる。足も手も、鉛でも流し込まれたかのように重たい。
「分かって、る」
息が出来ない。苦しい。
最近、雲幽に会った後はいつも情緒不安定になる。これがどういうことを意味しているのか何て分からないし、考えたくもない。
でも、胸が締め付けられるような痛みに涙が出そうになるのを、顔を歪めてこらえた。



「また仙蔵か?」
「うん、立花って何であんなに怒ってるんだろうね。もしやツンデレ? しかしデレがない。やっぱり私、嫌われてるんだろうね」
「仙蔵のこと嫌いか?」
「いんや」
何をおかしなことを言うのだろう、と雲幽は首を傾げた。
「私、立花とか心底どうでもいい」
見てて楽しいとは思うけど、と付け足した雲幽に、留三郎は仙蔵に同情した。とことん伝わってない。







だって、彼らは所詮キャラクターだもの
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他人に興味はないよ


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