先生ェ……、ニートがしたいです、合戦場で弁当売るアルバイトなんてものがある時代なんて来たくなかったです、死亡フラグですか先生ぇええぇええぇ!
何かとトリップの多い人生を送ってまいりました。そんな私は今、よく分からない世界におります。――笑えないわ! 何なんですか、私をこの世界に飛ばした奴は私に恨みでもあるんですか。私が美しいから僻んでいるんですか。私が優秀だから妬んでいるんですか。
声を大にして言いたい。せめて飛ばすのなら女に戻せと。よくあるじゃないですか、トリップしたら性別かわってましたって。私の場合質が悪いのは、私はトリップしたらではなく生まれ変わったらだったからだ。要するに、もうもともと男として生まれているんだな。しかしだ。よく考えてみろ、私は生まれ変わったらホニャララだったが、眼が覚めたらホニャララが出来るんだったら生まれ変わったらホニャララの人だって目が覚めたらホニャララで良いじゃまいか。何でそれが出来ないんだ。修造のように励ましてやるから、女に戻してくれ。
「おーい、お兄さーん?」
「今行きまーす」
そして何やってんだ自分。現在はよく分からない世界でよく分からないバイトをしています。合戦場で弁当を売るっていうバイトなんだが、弁当なんて自分の陣地で出るだろうがと言いたい。生活費のためだから言わないけれど。兵糧なんて賄えて当然で、賄えないということは国力が弱いということを見せ付けているような物なんだが、弁当を買うのは果たしてどうなんだろう。
飛んでくる矢を短剣で弾いたり、倒れこんでくる人を華麗に避けながら弁当を売ってはいるが、もっと安全なバイトってないのかよ。もう犬の散歩だって子守だってしてやんよというやさぐれた気持ちになってしまうのも仕方ないと思うんだ。時給がいいから辞めないけど。いや、当面の生活費はあるんだが、それだっていつ無くなるか分からない。私を異世界に飛ばした奴は親切なのか不親切なのか、前の世界で貯めた金を繰り越してくれるのだが、そんなことするくらいならトリップさせるなと思うのは私だけではないだろう。
「ぅ――あっ」
背後の茂みがガサガサと音を立てて揺れたので、じっと見ていると子どもが顔を出した。
何だこの子どもと思いつつ、ここは合戦場で危ないので立ち去るように言おう。それがこの子と私の精神衛生の為にも良いはずだ。ちなみに文句は受け付けない。
「ここはお前の来るような場所じゃない。さっさと帰るんだな」
「あ……お、お前に何が分かるんだよ!」
文句は受け付けないって言っただろ、とは言わないよ。いくら何でもこんな子どもに怒るほど、私は子どもではないし鬼畜ではない。
いや、前言を撤回するべきだろうか。子どもを泣かしてしまった。だってお前に何が分かるって言われても、何も分からないからね。私だって自分自身の状況がよく分からないのに、アンタの状況なんか分かるはずもないからね。寧ろ分かったら怖くないですか。読心術ですかって感じじゃないですか。
「ここは合戦場だ。弱い奴は死ぬ。何か用があるんだったらもっと離れた場所に居るんだな」
「……ッ!」
私は足元にある死体を蹴って踵を返した。不敬だって知るもんか。死人に口なし、死んだら何も分かんないだろ。生憎弁当も死体相手じゃ売れないし、死体はあるだけ邪魔だ。血で汚れてしまうし、何より死体は腐るじゃないか。前の世界でも死体は一杯見てきたから、一々動揺してたんじゃ身が持たないし。
もうそろそろ昼も終わるだろうから、弁当も売れなくなるし、そうしたら構ってやるか。
「全部売れたか?」
「ええ。私を誰だと思ってるんですか。これくらい容易いですよ」
同僚の言葉に鼻で笑って返してやる。生まれ変わる前はニートだったが、それでもバイトの経験は幾つかあるからね。現代の日本じゃ労働したことのない奴の方が少ないだろ。みんな働いて金貰ってんだ。しかもこういうバイトは歩合だし、数多く売った方が断然良い。とは言ってもこのバイトは私にとっては日雇いと一緒だ。それこそ明日は来てくれるかなからのいいともーだが、合戦が終われば弁当を売る相手も居ない。
「まだまだ終わりそうもないね」
「始まったばっかりですから。あ、今日はこれで失礼します」
「明日もよろしくね」
はいと挨拶して、先程の草むらへ向かう。あの子どもはまだ居るだろうか、見たところ訳ありみたいだし、やっぱり放っておけないよな。だって子どもに罪はないし、あんな小さい子を合戦場に一人にしておくのもどうかと思うしね。
おっと、居た居た。木の影に隠れてら。でも少年、頭が見えているぞ。がさがさと音を立てて進むと、音に驚いたのか少年は飛び上がってこちらを見た。
「お前……」
「隠れるならもっと奥にしな。ここら辺はまだ少し矢が流れてくるから」
足元に落ちていた矢を拾う。この矢を射った人は果たしてノーコンだったのか、ここに敵が居たからなのか。にしたって結構奥の方まで飛んできたな。合戦っていうのは普通広い開けた場所でやるもので、関ケ原なんかそうだと思うのだが、山や森に囲まれていることが多い。だから敢えて森のなかに隠れてしまえば被害を受けることは減るが、武士としては恥だろうなぁとは思う。敵前逃亡という奴だな。だからこそ森の方には人が少ない。人が見えると目立つため安全だが、逆を言えば見えなければ負傷しても気付かれにくい。それはつまり隠れやすいということでもあるのだけど。
「こんなところまで来るからには理由があるんだろ。オニーサンただのバイトだから口外しないし、言ってみな」
「何でアンタに言わなくちゃいけないんだよ」
「弁当をやる。等価交換というやつだな。腹減ってんだろ」
実は弁当1個パクってきたんだよね。自分の分は元々貰えるから、この少年用に。さっき見たときガリガリだったしね。子どもが痩せてるなんてけしからん。しかしまぁ、時代が時代だしな仕方ない。
「……」
「いらないの? その様子じゃ何日も食べてないだろ」
「……い、る。けど」
「じゃあ食え。腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ。歩くにしたって戦うにしたって親の仇を討つにしたって食べなきゃ出来ないんだぜ。やることがあるなら食べろ」
今まで行ったことのある世界はどれも壮絶だった。はじめに体験したのは王位争い。失道で国が荒れたり、戦争があったり。豊かな国で暮らしたこともあるけれど、どこに居ても巻き込まれる。
いや、巻き込まれるとは違う。台風の目に居る傍聴者だ。私が巻き込まれるのではなくて、巻き込んでいるのだ。台風の目を『外側』だと勘違いしているだけに過ぎない。いや、実際『外側』なのかどうかなど終わってみなければ分からない。
要するに、この弁当最高だよね!ってことだ。私、今なら醤油の素晴らしさを小一時間は話せるよ。まぁ、THE質素って感じの料理だけどね。栄養面を考慮された素晴らしい食事だと思う。
「うまうま」
「アンタはどうして俺のことなんか構うんだよ……」
「あのね、子どもが困ってたら誰だって助けるでしょうが。むさっ苦しい男だったら助けないけど、お前はまだ誰かの助けが必要なくらいちっちゃいんだ。おーけー?」
「……」
「お前は幸運だよ。こんな美男子に助けられて。世の中には子どもとみたら見境無く手を出す男だって居るし、身寄りのない子どもを高値で売る奴もいる。お前が生きているのはそういう世界なんだよ」
分かってる、少年はそう呟いて俯いている。おや、やれやれ全く、手のかかる子どもだ。
どう合っても厄介ごとに巻き込まれるようだ。子どもを慰めるなんて厄介ごと以外の何物でもないぜ、ホント。
「腹が膨れると冷静な判断ができるようになる。ほら、泣くな。一緒に来るか?」
「なんで……」
「子どもは守られるべきだからだ。私に付いてきて、何か違うと思ったら出ていけばいいさ。私は引き止めたりしないよ。子どもにだって選ぶ自由がある。だから、私に付いてくるのも悪くはないなと思ったら、居ていいんだ」
私は箸を置いて、手を差し出した。訳有りを放って置くなんて、やさしい私がするわけないじゃないかハハハ。






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何ヵ月ぐらい放置していたのかも分かりません。
書いてる途中で電源が落ちて以来、目を背けていたような。


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