始まりがあるから終わりがある。出会いがあるから別れがある。そう、『私』もそろそろ潮時なのだ。
碧州での働きすぎで倒れそうになったけど、杜影月とその一行に助けられました。茶州ですらこんなに働いてないぜってくらい働かされて、欧陽玉に軽くイラッとしてしまったのは私のせいじゃないよ、うん。だってへとへとだから休もうとしても何故か欧陽玉に見つかるし、こうなったらサボってやると思っても欧陽玉に見つかるし、何なのアイツ仕事してんの? まぁ、そんな感じで馬車馬や働き蟻だってもっと休んでるぜ絶対ってくらいこき使われて、杜影月が欧陽玉に怒鳴り込んでくれました。だから杜影月好きなんだよ、可愛いんだよ、命の恩人だよありがとう! いやあれはゆとり世代にはきつかった。三途の川が見えたもん。
碧州も一段落ついたので、今までの欝憤を晴らすために体調不良を言い訳に休めるだけ休んでやったぜ。これも杜影月のお陰です南無南無。そうしたら欧陽玉にとっとと働けって叩きだされたけど。何なの、こっちはお願いされたから来てやってるっていうのに、その態度! プンスカ怒りながら職場に戻ったら、泣き付かれた。キモいやめて。女の子に泣き付かれるのは大歓迎だけど、何が楽しくて男に泣き付かれなきゃいけないわけ。反吐が出るわ。っていうかオマエラ私のこと大嫌いだったじゃないか。阿鼻叫喚のようにうにょうにょ湧いて出てくる腕を叩き落としつつ、欧陽玉が付けてくれた補佐官に用件を聞くと、どうやら仕事が溜まる一方で全く減らないらしい。みんな不眠不休でやっても減らない。どんなに頑張っても減らない。どうしてだろうと考えたときに、私が居ないからだと気付いたらしい。やっと私の有り難さに気付くなんて遅いな、ふふん。
「で、結局こうなる訳か……」
職場にあった殆どの仕事を私に回された。まぁ、急を要するものはずる休みしていた間もやらされていたし、ここにあるのは殆どが確認よろしく的な書類であることは間違いないだろう。どうやって積み上げたのか分からないが、一メートルはあろうかという高さまで積み上がった書簡三山を一日で終わらせた私すごいな。称賛に値する。
不眠不休だった奴らは早々に仮眠室へと追いやった。その際補佐官には、あなたがもっと早く出仕していればこんなことにはならなかったとかなんとかうじうじと有難い説教を賜わったが、そんなことを気にするような私ではない。私は珍しく本気を出し、やっとこさ書簡の山を消したのだ。欧陽玉ではないけれど、夜更かしは美容の大敵だから早く寝ることにした。仮眠室に入ると、どうやら寝台まで辿り着く気力も無かったのか床で寝ている奴が十人ばかし居た。寝台は全部埋まっていないようだし、寝ている奴らは全員ぴくりとも動かないから、起きて寝台が埋まることも無いだろう。戸締まりをしていた補佐官がやってきて、呆れたように床で寝ている奴らを見ていたので、軽く謝っておいた。当然睨まれたけど。
「雲幽!」
よし、寝るかってなったその時、欧陽玉が飛び込んできた。え、何どうしたの。
「恵茄殿が帰還しました」
「へぇ、生きてたんだ。さすが凶運のケイナ」
感心していると、そういうことじゃないと頭を叩かれた。これ以上馬鹿になったらどうしてくれる!
「もうすぐ、貴陽に帰れるんですよ」
「そうなるね」
「雲幽、あなたはこの状態の碧州を見て、何とも思わないのですか」
「かわいそうだなとは思うよ。だから文句も言わずに仕事しているじゃないか。碧州の復興が一日でも早く出来るようにね。でも、私にとって碧州は故郷でもないし、対岸の火事の後始末をさせられているようなものだよ」
「雲幽……!」
碧州出身の人たちには悪いと思うけど、私が本気で仕事しているだけでも讃えられるべきだと思うな。貴陽での生活からは考えられないくらい頑張っているのに。文句とか言われちゃうとやる気無くすわ。
「あのね、タマチャン。私にとってこの国で起こる全てのことが他人事なの。私は愛国心とかないし、正直この国に生まれてなかったらこんなことしてないよ」
「――分かっていたつもりです、あなたがそういう考え方をしていること。普段は冗談めかして言ってはいますが、本気でそう思っていること。でも、私は碧州の復興のために、あなたの力を借りたかった」
「タマチャンに頼まれてなきゃこんなことしないよ。タマチャンはこの世界で唯二のオトモダチだからね」
これが旺季や孫陵王だったら、私は絶対に手を貸さないだろう。私がやらなければいけないものではないし。
でも、欧陽玉だったから私は手を貸した。欧陽玉は私じゃなきゃダメだと言ったから。王さまの命令で茶州に行くのとは訳が違う。私の意志で碧州に来た。
「これがたとえ他の誰でも、私は碧州には来なかったよ。碧州のためにじゃらじゃらを外したタマチャンのために、私は碧州に来たんだ」
欧陽玉が付けてくれた補佐官が、鋭い視線でこちらを見てくる。視線に殺されるってこういうことなのか。人一人殺しそうですぜ。
「雲幽、貴陽に戻れば私もあなたも地方に飛ばされるでしょう」
「大丈夫だよ、おまえがその耳環を持っているかぎり、喬雲幽が欧陽玉より先に死ぬことはない」
「雲幽……」
「ほら、おまえも疲れてるだろ? 適当な寝台使って寝ろ」
私がそういうと、欧陽玉はいそいそと私の隣の寝台に寝ていた奴を引きずりおろしてそこに寝た。引きずり下ろされても寝ている哀れな奴に、私は自分の毛布を掛けてやった。私優しいな。
「ほら、補佐官殿、てめぇも寝ろ」
私を一睨みして毛布をかぶった補佐官に苦笑して、私も毛布をかぶる。
物語の終末が近い。そのあとはどうしようか。官吏をやめてのんびり暮らすかな。自分の世界に帰る方法を探すのもいい。あの六人の爺共を脅せば、帰れるだろうか。元の世界に未練なんて無いが、帰れるなら帰りたい。あっちの方が私にあっているし。男の生活も中々魅力的だったけれど、私はやはり女だからなぁ。女の一途さも優しさも怖さも知っている。
ふと、私がこの世界でも女だったらどうしていたんだろうと考えた。きっと今以上にごろごろだらだらしているに違いないが、こんなにもイケメンが居るのなら「禁断の薔薇の園ハァハァ」とか言って、女官吏を目指したかもしれない。まぁ、無いとは思うが。
でも、今になって思う。それもよかったかもしれないと。







始まりがあるから終わりがある。出会いがあるから別れがある。そう、『私』もそろそろ潮時なのだ。
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なんか次回最終回っぽいけど、たぶんそうはならない。でも次回最終回になったとしても怒らないでね、てへ。


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