開き直って楽しもう

ちょッ、またかよ!
え、何か私に恨みでもあるんですかって言うくらい、私ってば異世界に飛ばされまくってんですけど。あ、何なのコレ。
正直に言おう、此処はどこだ。何か戦後の昭和って感じなんですけど。なんか退廃的な雰囲気が漂ってんですけど。
まあ、今回は日本だってことでよしとしようか。ヘタに夢と魔法の国とか、変な怪物の出てくる世界よりはマシマシ。――嫌な慣れだ。
しかしまあ、なんと言うか服を和服に替えてくれる親切心があるんだったら、女に戻せよと言いたい。生まれ変わったら女から男になっちゃったって全然笑えないから! もうマジで女に戻せ! いや、男の方が便利なのは便利なんだけど、何か未だに男である自分が本当に自分であるという自信が持てない。
「此処何処だ」
何かカンカン帽見たいなの被ってる人多すぎじゃね、ぷぎゃー。
やっぱり昭和なんかな。昭和って言うと思い当たるのがいくつかあるんだが、まさかね。純文学の世界ってことはないだろうから、ライトノベル――笑えねぇ。
ぼうっと突っ立ってたら、クラックションが聞こえた。思わず飛び上がったが、大丈夫。飛び上がるくらい、ビックリした人間は誰だってやるさ。恥ずかしくない恥ずかしくない。
「道のど真ん中に突っ立ってんな!」
「サーセン」
「あ? 何だその口の利き方は」
ぎゃあ、何かやばい風貌の人なんですけどわらわら。もう窮地すぎて逆に笑しか出てこないっすわらわらわら。
胸倉を掴まれそうになったのでさっと避けるよー。私は前に居た世界で無駄に内乱とかに巻き込まれたし、生まれ変わった家では護身術程度のことは必須だったし。
――何気に私、強いな。だって此処まで生き延びてるって凄くね? もう三十路なのに、生き残れてるって本当に私半端ねぇ。
「テメェ……」
「もしかしてヤの付く自由業の方ですか」
「は?」
どうやら違ったようだ。だろうなぁとは思っていたけど。何かヤの付く自由業の方たちはもっと高級そうな車に乗ってるイメージだしなぁ。
じゃあ、何者だろうか。堅気には見えないが、もしかしてただ単にそういう容姿の人なのだろうか。
「俺は警察だ」
「はぁ……、警察ですか」
「テメェこそ何もんだ」
「えー、いやぁ、山田太郎です」
「嘘を吐くなら、もっと上手い嘘をつくんだな」
「あー、そんなことより、ここら辺に本屋ってありますか?」
こいつ警察かよ! 豆腐みたいに四角い顔しやがっ、て――。え、もしかして刑事さんですか。下駄とか呼ばれてませんよね?
いやぁああぁぁああぁ、こんな暗い世界は嫌だぁ! 戦後なんて大抵暗いもんだけど、この世界はそれに輪をかけて暗いグロいじゃないですか!
小説で読む分には好きだよ? だがいざその世界で生活するとなると、それとこれとは話が違うぜ馬鹿野郎。第一、私のキャラに合わないんだよ、この世界は。
「ああ、それならこの先にある神社の近くに一件――」
「ソウデスカ、ありがとうございましたー」
退散退散。
とりあえず地図を見て現在地確認して、あとはどこかでアパートでも借りて慎ましく暮らそう。
何でかは知らないが、当面の着替えとお金も足元の旅行カバンに入っていたし、こちらの紙幣価値なんて知らないが、恐らく前の世界で貯金した分だろうから、結構あるだろう。使い道なかったし、現代日本の貨幣価値にしても結構なお金だ。
で、暫く歩いたが、本屋は何処だよ。なんか住宅街と言うか、住宅街と言うのも悪いようなって感じの場所に来てしまったんですけど。
「……」
あの刑事め! いや、アノ刑事が仮に私の想像している刑事だとしたら、そいつが言う本屋なんてここに決まってるじゃないか!
ええい、もういいや。古本屋でも地図くらい置いてんだろ。無かったら隣の蕎麦屋に聞こう。
私のキャラには合わないが、こういうのに関わるのも面白い。そもそもこういうの大好きだし。ゲーム感覚でさ。まあ、コンティニューなしっていうのはどんな鬼畜ゲームだよって感じで辛いが、まあその分死に物狂いになれていいんでねぇの?
「すみませーん」
「はい、なんでしょう」
「ここって地図置いてますか」
「地図――大体のならありますよ」
買わなきゃ駄目かなぁ。買う気無いんですけど見せてください、なんて言ったら殺されるかも知れん。視線で!
文面で読むのと実際に見るのとじゃあ随分と違うな。なんか本当に生きてんのコイツ?っていう感じだな。
「ああ、あった」
「此処ってどこら辺ですか?」
主人が引っ張り出してきた地図を指差して聞く。とりあえず買うも買わないもそれを聞いてからだ。此処がどこだか分からないのだったら、地図を欲する理由も無い。
ええっと、と主人が現在地を探している間に、私は店内を眼の届く範囲で軽く物色する。漢書和書ばっかりだ。とりあえず目の前にあった本をとってみる。
前に居た世界で見につけたスキルで、何とか解読する。だがちょっと文法が違うのか、意味が分からないところがあったりなかったり。
「お客さん、現在地は此処――中野」
「中野……とりあえず、東京駅にはどうやって行けばいいんですか?」
「変わった御仁だ。そんなことも知らないのかい?」
「ええ、まぁ。気付いたら迷子になっていたもので」
日本の中心地に行けば何とかなるかなって思ったけど、やっぱり無理かなぁ。この国で戸籍があるのかも分からないし。
戦争で紛失したって言えば何とかなるかな。
「時間があるのだったら自分に合った本でも探すといい」
「それが、時間に捕らわれてないもので」
「ならいい。その本に興味があるんだったら読んでいくといいよ」
興味と言うか、単純に漢文が読めるかどうか気になっただけなんだけどね。まあ、丁寧に返り点とか付いてるし、全くの白文と言うわけじゃないから読めないことは無いんだけど、どうしても前に習得した文法で読んでしまおうとしてしまう。
私の脳みそよ、もっと学習するんだ。
「いや、今日は遠慮しておく」
「そうか――。是非また来てくれたまえ」
「近くによる事があったらね」
そう言って古本屋を出るも、見つけた居候先の用事で近くではなく、この本屋を再び訪れる事などこの時は到底予期していなかった。





開き直って楽しもう
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このあと榎さんちに居候する事になります。
割と王道。


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