不戦敗の恋


「賽?」
「そうそう!戰華達とやろうかと思って!」
「別にいいけど、やり方知らないよ」

鬼姫に呼び出され、鬼姫の室に向かうと、戰華達と賽をやらないかと誘われた。
やり方を知らないと言えば、教えるからという姫に押され、結局賽子をすることになり、戰華の室へと連行された。
札ならやったことがあったのに、なぜわざわざ賽なんだと文句を言うと、名前がやったことないのじゃないと面白くないだろう?と性格の悪い笑みを浮かべる鬼姫を思わず殴りたくなった。鬼姫は本当に鬼のように強いから、私の拳などいとも簡単にかわされるのだろうけど。
頭を抱えそうになってふと、気がついた。

「戰華達って、他に誰がいるの?」
「霄殿がいるよ」
「――霄様がいるの?」
「みんなでやった方が楽しいからね」

どうしよう。鬼姫はそう言うものの、ますます行きたくなくなってきた。好きな人の前で賽子、つまり賭博をやるなんて。そんなところ見られたくない。乙女の沽券に関わる。

「名前、ぐずぐず言ってないで行くよ。また戰華がうるさいんだよ」
「――わかった。行く」

私は覚悟を決めた。女には、時には覚悟を決めて潔く挑まなくてはならないときがあるのだ。そして、今がその時なのだ、きっと。
それに、私は風の狼。女として生きることよりも、戰華のために生きていくことを決めたのだ。女は度胸だ。
鬼姫に引きずられて戰華の執務室に着くと、霄様は既に準備万端に整えて優雅に椅子に座っていた。
対する戰華は明らかに不機嫌だ。

「遅い」

自分からいきなり呼んでおいて、少し遅れたからと言って文句を言うなと言いたい。なんて我儘な国王なんだ。昔からの浅からぬ縁ではあるが、この我儘さにはカチンとくる時の方が多い。

「悪かったわね。ろくに仕事もしない戰華にそんなこと言われたくない!」
「俺のどこが仕事してないって?まぁ、いまだに後宮で迷うおこちゃま名前には俺の仕事を理解できるはずもないがな」
「なんですって!?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」

戰華の言葉にカッとなって目尻を釣り上げてしまったが、上司である鬼姫が言うならば止めぬ訳にはいくまい。
胸の内に燻ぶるように残る苛立ちを持て余しそうだ。

「おまえたちは相変わらずだな」

呆れたように言う霄様に、霄様の存在と我を忘れ、戰華とバチバチ言い合ってしまった。恥ずかしさがこみ上げるのを誤魔化そうとすると、戰華が白けた視線で私を見ていた。
私が一体何だというのだ。

「ふん、相変わらずな貧乳だとさ」
「なっ、なによ!!動く時邪魔だからなくていいんです!!」

私は兇手だから、無駄にボインボインしてても邪魔になるため、胸は小さい方がいい。そう、小さい方が何かと便利なのだ。胸が小さくても大丈夫な私は紅家の長姫でもないし、後宮の女官でもない。兇手の名前なのだ。
私は戰華の為に兇手として生き、死ぬと決めた。なのに、その戰華が胸元を蔑ろにするなんて許せん。
ちらっと隣で呆れて静観している鬼姫の胸元を見た。ああ、現実って。

「ん?どうかした?」
「う、ううん!!何でもない!ああっと、そう!……姫が無理しなくてもいいんだからね。姫が傍にいないと戰華が暴走するし」

私がそういうと、鬼姫は悲しそうにうれしそうに、笑った。複雑な表情を見せる鬼姫とは違い、霄様は腹を抱えて笑っている。ちなみに戰華は眉に皺を寄せて不機嫌そうにしている。
私は何か変なことを言っただろうか。

「俺は鬼姫がいなくても暴走しない」
「そんなことないと思うけど。姫が仕事でいないときそわそわしているし」
「それはお前だって同じだろ!」

再び言い争いが始まりそうなのを察した霄様の「結局、みんな同じということだ」という鶴の一声でとりあえず決着がつき、賽子を始めることになった。

「丁」
「「「半」」」
「……また負けた」
「やっぱりお前、兇手に向かないんじゃないのか」

戰華にそんなことを言われるなんて、と思ったが、今の成績は三勝二十六敗。何も反論できない。ちなみに今は十八連敗している。
私には類稀な動体視力やずば抜けた幸運なんか持ち合わせてはいないということが判明した。というか、三人とも勝ちすぎではないだろうか。これでは勝負になっていない気がする。

「戰華、名前が落ち込むからそういうこと言わないで」
「姫ありがとう!もう大好きッ!やっぱり戰華とは違うわぁ」

鬼姫はなんて優しいのだろう。名前が落ち込むとめんどくさいんだからという言葉は聞かなかったことにしよう、そうしよう。それでも戰華に比べて、鬼姫は本当に優しい。
幼い頃から、私が泣いていても鬼姫は慰めてくれた。
それに比べて戰華は――。

「ちゃんと現実を分からせてやらないでどうする。名前、お前には兇手は向かない。やめてしまえ」
「戰華がなんと言おうと、私はやめないから!」
「ほらほら、二人とも霄殿に笑われているよ」
「霄!」
「霄様!」
「悪い悪い」

クスクスと笑っている霄様に、不覚にも見とれてしまった己が憎い。先ほどもそうだけど、笑っている姿まで様になるとは霄様は卑怯だ。顔面がとにかく卑怯だ。許せん。

「名前、ほら、始めるよー」
「うぅ、まだやるの?」
「名前、楽しいからいいじゃないか」
「霄様には負ける人の気持ちなんて分かりませんよ……」

恋でも賭博でも負けるなんて。
私は知っている。この人の心に、誰がいるのか。だって、ずっと見てきたから。
せめて賭博だけは、負けたくないなと思っていたら、その後も連敗記録を更新し続けた。
ホント、ツイてない。
不戦敗の恋


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