9(5周年企画)

さて、どうするべきか。
先輩が昼休みに突撃してきてから二日、バイトのシフトも確定したようだし、連絡しますねと簡単に言ったものの、連絡先を知らない。ということは3年生の教室に行かなくてはならない。めんどくさいなぁ。それに3年生の教室に一年が来たら目立つだろうなあ。兄さんだったら兄妹なんですと言えるが、先輩とどういう仲なのかと聞かれたら困るなぁ。流石にその場では聞かれなくても、私が去った後に先輩が聞かれるかもしれないし。答えにくいだろうなぁ。部活動が一緒とか、中学が同じだったとか、そういう関係でもないし。こういう場合、花見友達って素直に言えばいいのだろうか。爺臭いって言われちゃうよ先輩!
まぁ、気にしてもしょうがないっちゃしょうがないんだけど。起こってみないとどう対処していいか分からないし、そこら辺は臨機応変に行こう。無策は無謀だって分かってますよええ。
しかし1年の教室と3年の教室じゃやっぱり落ち着きが違うんだなぁ。1年はまだわいわいがやがや騒々しいけれど、3年は落ち着きがあるというか。すごいなぁ。たまに高校生なのか疑うような人も居る。3年の教室は未知の世界です先生。
ふと思ったんだが、私先輩のクラス知らなくね? えええマジかよ、せっかくここまで来たのに。兄さんに聞きに行かなきゃじゃんか……。二度手間じゃんかよ、あああ自分アホすぎてどうしようもないな!
一気にやる気なくしたわ、もう教室帰ろうかな……。時間もそろそろ微妙だし。一応準備はしてきたけど。先輩に聞くのは次の休み時間でもいいわけだし、

「名前?」

私を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、そこには先輩がいた。



さて、どうするべきか。
名前とデートの約束を取り付けたものの、肝心の連絡先を聞かなかった。いや、名前のクラスに行けば世話をないのだが、何だか急かしているようだし、何も行って来ないということはまだ予定が決まっていないということなのだろう。
しかし名前の連絡先を知らないのは困る。これからも色んなところに二人で出かけたいし、お休みメールとか電話とか、したいと思う。名前のことをもっともっと知りたいし、自分のことも知ってもらいたい。
これは恋なのだと欧陽玉に言われてから――うわの空だったのを見咎められてすべて吐かされた、名前への好きだとか愛してるだとか、今まで胸の内で燻っていた感情に名前が付いてあふれ出てくる。まるで忘れていたものを取り戻すかのように、名前が好きだと言うことが当然になった。それは決して不快ではなくて、とても心地よいものだったから、さらに名前が好きになった。
はぁ、と高まった感情を静めるため息を吐き出して、名前に連絡先を渡そうと立ち上がった。聞くのは急かしているようで嫌だったから、連絡先を渡すことにした。そうしたら律儀な名前は予定が決まれば連絡してくるだろうし。

「玉、ちょっと1年の教室まで行ってくる」

「ああ、運命の人ですね」

「どうしてそうなったのか後で問いただす必要があるな」

運命の人が名前を表しているのは分かったが、どうして名前が運命の人なのか、意味が分からない。
だが、名前が運命の人だと言うのは、物凄くしっくりした。楊修にとって、運命の人が居るならばそれは名前以外有り得ないだろう。しかし、それとこれとは話が別で、欧陽玉に運命の人などと言われるのは些か気に食わない。
自分の教室を出て、1年の教室に向かうために歩いていた廊下の先に、今まで考えていた人物が居たので、驚いて声を掛けた。振り返った名前は目を見開いて、口が少し開いていた。
小動物のような可愛さに、目尻が下がりそうになるのを必死にこらえた。今ここでデレデレ(?)して、気持ち悪いとか思われたら即死する自信がある。名前は気持ち悪いとまで思わないかもしれないが、引かれたりしたら気絶する。

「どうしたんだ、こんなところで」

「えー、あの、予定が決まったから連絡しようと思ったんですけど、メアドとか知らないし、だから直接言うしかないなと思ったんですけど、先輩のクラス知らなくて、引き返そうとしていたんです」

感動した。タイミングの良すぎる自分を称賛したい気持ちになった。今を逃していたら次に会えるのは授業後だった訳である。
それに名前が自分から楊修に会いに来てくれたというのがとてつもなく嬉しい。少しでも楊修のことを気に掛けてくれたというのが、涙が出そうな程に。どこから来たのかも分からない激情が胸を満たしていく。

「私も、名前に連絡先を聞いてなかったことを思い出して、1年の教室に行こうとしていたんだ」

奇遇だなと言うと、名前ははにかんだ。その可愛らしさに倒れこみそうになるのをなんとか堪える。名前に心配を掛けたくないが、心配してもらいたいとも思うし、でも困らせたくないし、とグルグル考えてしまう。いや、本当に倒れるわけではないのだが。
名前はいそいそと携帯を取出し、赤外線通信出来ますかと聞いてきたので、欧陽玉に教わったから大丈夫だと頷いた。楊修も携帯を取り出す。

「じゃあ、まず私が送りますね」

名前がそう言って携帯を近付ける。あまりの距離の近さに、どぎまぎしてしまう。それをなるべく悟られないようにして、楊修も携帯を近付けた。
数秒で『名字名前を登録しますか』と出てきたのではいを押す。楊修はすぐに自分の連絡先を送った。

「ありがとうございます。もうそろそろ授業始まっちゃうんで、予定はメールしますね」

「ああ」

そうか、もう休み時間が終わる。ここから3年の教室は近いが、1年の教室は遠い。ならば名前はそろそろ行かないと間に合わないだろう。
行ってしまうのか。同級生だったら、同じ教室で授業を受けたり、休み時間に簡単に会いにいけるのに。






離れてしまうのが寂しいと思うのは私だけでしょうか。
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甘いのかなぁ


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