8(5周年企画)

あーあ、まったく。嫌になってしまう。
それもこれも、全てはあの楊先輩のせいなんだけど。だってさ、私が今朝楊先輩にタルトをあげたからって、昼休みにお礼を言いに来ることはないでしょうや。しかも私はまだご飯食べてたしね。私がお友達としゃべりながら食べていたからって、いくらなんでも早くないですか? おかしくないですか。どんだけ早食いなんですか。
そして未だ目の前にいる楊先輩。嫌になるよまったくナ! しかもお弁当を食べる私をじっと見つめてくるんだよ。なんなの嫌がらせなの? そんなじっと見られてゆっくり食える方がおかしくないですか。頭わいちゃってますよきっと。
しかも一緒に食べていた友達はにやにやしながらどこかに行っちゃうし、なんかどうぞごゆっくりーとか言ってたけど、お前はお見合いに付いてきた母親かと言ってやりたい。

「弁当は自分で作ってるのか?」

「ええ、一応」

「……上手いんだな」

「そんなことないですよ。普通です」

何で食べてないのに美味いとか美味くないとか分かるんだ? そりゃあ見るからに美味しそうだったり不味そうだったりすれば話は別だけど、私のお弁当はごくごく普通のお弁当だ。冷凍食品の入っていない、いかにも手作りですって感じの庶民的な弁当だ。
先輩マジで意味分からないです。あ、もしかしてお菓子からあたりを付けたのかな? だとしたらそれは何というか検討外れだ。世の中にはお菓子を作れても料理作れないなんて不可思議な女の子はいっぱいいるんだよ、知らないのか。
料理とお菓子作るのって違うし。お菓子は作るのも食べるのも好きだが、料理を作るのはあまり好きじゃない。
お菓子は作ってあげると感謝されるが、料理はおいしいねだけで終わってしまうから。感謝の度合いが違うのだ。
もしかしたらこういうところはちゃんと遺伝しているのかもしれない。商人の家系だからか、ギブアンドテイクは基本だし、礼には結構うるさい。

「今日はのんびりお弁当作ってたら遅刻しそうになっちゃったんです」

「そうだったのか」

「そういえば楊先輩はいつもあんな時間なんですか?」

「いや、いつもより結構遅いな。今日は寝坊したんだ」

なんか意外だなオイ。先輩が寝坊? 何か悩みでもあるのだろうか? 私の学年にまで聞こえるくらい優秀と名高い先輩が、宿題が終わらなくて徹夜して寝坊とかはないだろう。そもそも上級生はそんなに宿題も多くない。

「何か悩み事でもあるんですか?」

「悩み事と言っていいのかは分からないが、眠れなかった原因ならある」

「原因が分かっているのなら早く解決すればいいんじゃ……」

たとえば恋とかさ、可愛いあの子を思うと夜も眠れないとか。あ、それは女の子に多い現象なのかもしれない。中学の時に、恋に悩んで寝れなかったのは基本女の子だった。男子が恋して眠れないなんて一度も聞かなかったし……。聞かなかっただけで、そういう人いっぱい居たのかな。
いや、恋だと決め付けるのは性急か。もしかしたら進路のこととか家庭の事情とか、そういう悩みかもしれない。

「すみません、そんなに簡単に解決できたら悩みませんよね」

「いや、名前が協力してくれたら解決する」

名前? 何で私は名前で呼ばれているのだろうか。もしかして兄さんと区別するためかな。名前のほうが私だって一発で分かるし。名字だったら私か兄さんか分からないしね。なるほど。

「私がお力になれるのだったら、いくらでも協力しますけど」

「じゃあ、早速なんだが一緒に出かけないか?」

「いいですよ。バイトがあるので日にちは限られちゃいますが」

私なんかと出かけたいだなんて、相当キてるんだな。まぁイケメンと出かけられる機会なんて、私の人生の中じゃそうあることでもないから、ここは記念だと思えばちょうどいいのかもしれない。
というか私と出掛けることがどういうふうに解決につながるのか、全く持って理解不能ですよ先輩。

「いつでもいい。名前が付き合ってくれるということに意味があるんだ」

「分かりました。じゃあ日にちが決まりしだい連絡しますね」

「そうしてくれると助かる」

そこまで話が済んだとき、五限目の予鈴がなった。困ったように眉をハの字にした先輩に首を傾げると、ハの字だった眉を顰めてさっと顔をそらしてしまった。
あれ、私怒らせるようなことしたか? もしかして、私のような平々凡々な小娘が首を傾げて可愛く見せようとすることすらおこがましい的な? ええぇ、もし本当だったら相当理不尽ですよ先輩!

「じゃあ、また」

「あーはい」

意味分かんねぇ。楊修先輩マジ意味不すぎる。






恋愛感情への変化は本人だって気付かないうちにしているものなのです
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気になるから好きへの変化は、些細なことで自分も気付かないうちにしている気がします。
別に何が決めてとかじゃなく、優しいなとか気になるが積み重なって好きになるのかなと。
恋愛したことがない奴がこういう話を書くのもおこがましいですが。


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