愛していた。
彼女を失えば、生きていけないくらいに。
彼女を失うことなんて、考えても見なかった。
いつもにこやかに笑って隣を歩いてくれる彼女に、私はどれだけ救われ、癒されたのだろう。数えたらキリがないくらい、私は確かに彼女に助けられていた。
私の方が彼女より一回り近く年上だから、置いていくのは私の方だと思っていたのに。彼女もまた、そう言っていたのに。
彼女とやりたいことは、まだ沢山残っているのに!
毎年家族で連れ立って桜や梅や桃の花を見に行こうと約束した。夏になったら川へ遊びに言って、秋は紅葉や茸を狩り、冬はどこにも行かないで皆でくっついていようと約束したというのに。
彼女が習い始めた琵琶を、巧くなったら一番に聞かせてもらう約束をしたのに。
私の心はこんなにも彼女で埋め尽くされているというのに!
亡くなってしまった彼女は、もう私に笑いかけてくれることはない。
茫然と毎日を過ごした。
見兼ねた友人の欧陽玉が、仕事中にも関わらず私を花見に連れ出した。
桜は、満開だった。
雨のように落ちてくる花びらの合間には、まだどこか彼女がいるような気がして、居ないとは分かっているのに思わず探してしまった。
そして、大きな一本の桜の枝に――。
「……」
「楊修、どうかしたんですか」
愕然として、思わずしゃがみこむも腰が抜けて尻餅をついた。
枝に文が結わえ付けられていた。
それを手に取ろうと手を延ばすが、地面に座り込んでいるため当然届かなかった。
しかし、文に気付いた欧陽玉がそれを枝から外し、私に差し出した。
「――ああ」
その文にはただ一言、またねと。
私と彼女は、離れ離れになってしまったが、それは永遠の別れでは無かったのだ。
必ずどこかでまた会える。
私はそれがとてつもなく嬉しくて、でも私が生きているうちはもう二度と会えないのだと悟り、涙を流した。
「おぅい名前!」
「兄さん! 待ってたよー!」
友人が名前を呼ぶと、振り向いて嬉しそうに駆け寄ってくる少女に、確かに見覚えがあった。
妹が困っているからと言われてやってきたものの、先日出会った少女と友人がまさか兄弟とは。世の中は狭い。
「あ、このあいだの! そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。私は名字名前です」
「楊修だ」
「何、知り合いだったの」
そう言って笑う友人に、思わず違うと言った。なぜそう言ったかはよく分からないが、知り合いという言葉で済ませたくない気がした。
そう、少女――名前はもっと大事な……。
「知り合いじゃないなら何なんだよ」
「お花見仲間だよ」
「花見って、あの丘の桜?」
「うん。兄さんだって行ったことあるでしょ?」
「残念ながら俺はないなぁ。何か近寄りがたいんだよ」
友人とその妹のやりとりを見ていたが、急に本来の目的である辞書を貸すということを思い出して、名前に辞書を押しつけて去った。
何だか名前が話しているのを見ていると、凄く苛々して頭が混乱した。その顔を掴んでこちらに向けたい衝動に駆られる。
お願いだからこちらを見てくれ、と懇願しそうになる。
(まるで恋煩いだな)
約束の木の前で会いましょう
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なんてヤンデレ。
名前変換を付けてみたけどどうでしょう?
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bkm