だって、あなたはあたしをおいていったじゃない。
「だーかーらー、通してくださいって言ってるでしょ!」
「朝廷に女を入れるわけにはいかねぇよ」
くそっ!なんて融通の利かない男なんだ。
朝廷に知り合いがいるって言ったのに!
「何よ!あんたは絶対亭主関白振りかざして奥さんに浮気されるタイプなんだから!」
「何で知ってんだよ!じゃなくて、とにかくここは通さないからな!」
ちっ、動揺させる作戦は失敗か。
っていうか、こいつマジで浮気されたんだ。
ご愁傷さま
「――どうかされたのですか?」
「ああっ!天の助け!!あの、管飛翔知りませんか?」
なんかちょうど通りかかった心優しい人が助けてくれそう!
でも、杖ついてるけど大丈夫なのかな?
「飛翔のお友達ですか?」
「ああー、まぁ、そんなもんかな?」
正確に言うと今の関係は友達ではない。
昔は友達だったから、一概に違うとは言えないのだけど。
「通してあげてくれませんか」
おお、この人は今までまわりにいなかったタイプの人のようだ。
なんというか、有無を言わせないようなほほ笑みが素晴らしく恐ろしい。
「あー、ごめんよ、門番。せめて君の奥さんが戻ってきてくれることを心の片隅で祈っておくから」
「余計なお世話だ!」
というわけで、無事朝廷に入れた。
ちなみに、心優しいお兄さんに案内してもらった。
案内してもらった先には、昔幾度と無く見た光景(飛翔が酒瓶の中心で酔っ払っている)が、再現されていた。
「くぉら―――!!何やってんのよ、馬鹿飛翔!あんたなんか文字通り天国に飛んでいってしまえばいいんだわ!!」
「おわっ、名前!何でてめぇがここにいんだよ!」
「おじさんに頼まれたのよ!」
「何をだよ!」という飛翔を軽く無視して「さて」と話を続ける。
飛翔なんかに構っていたら、日が暮れてしまう。
「おじさんから預かってきた手紙。くれぐれも『直接手渡しで』と言われたからわざわざ持ってきてあげたのよ。感謝しなさい」
「……突き返せ」
「んなことできるわけないでしょうが!そんなことしたらあたしがおじさんに殺されるわ!!」
飛翔のお父さん――おじさんはとてつもなくこわい。
さっきのお兄さんとは違う恐さだ。
まぁ、さっきのお兄さんは腹黒かったけど、おじさんはヤの人だから違うのは当たり前だ。
「あんたはいいわよ、慣れてるんだから!っていうか、いったい何だったのよ!」
「見たいなら見ろよ」
ポイッと捨てられた手紙を拾うと、そこにはおじさんに似合わないかなり綺麗な字で『飛翔へ』と書かれていた。
そんなことはどうでもいいか。
気を取り直し、手紙を読むと、そこには恐るべきことが書いてあった。
「――…何であたしとあんたが結婚しなきゃいけないの――!!?」
「だから突き返せって言っただろ」
「いや、まじありえない!だって婚約解消したじゃない!しかも何であたしの両親にまで了解とってんの!?」
そうだ。
飛翔が貴陽に行くからと、婚約を解消したのだ。
あたしはついていくことはできないから。
っていうか何で10年以上もたった今なの!?
「――あ、あたし結婚してるじゃん。あーいけない。驚きで吹っ飛んじゃったけど、あたし結婚してたわ」
「は?名前結婚してたのか!?」
「そうだけど……あ、言ってなかったっけ?」
「言われてねぇよ!」
あー、そういえば、言ってなかったかも。
知られたくないから、言わなかったんだよね。
「誰だよ!」
「まぁ、そんなことはどうでもいいじゃない」
「よくねぇよ!」
――そんなに黙ってたこと怒ってるんだろうか。
「まぁ、落ち着いてください。飛翔」
さっきの優しいお兄さんだ。
本当に腹黒いけど素敵だなぁ。
「ご主人とは……」
「まあ、あんまり仲良くはないですね」
別れたくて。
すでにそういう話は持ちかけてある。
帰ったら、返事を聞けるだろう。
「別れたいんだろ?」
「………さすがですね、元婚約者様」
どうしてこんな言い方しかできないんだろう。
本当は好きで好きで、大好きで。
結婚してからも忘れられなかった。
飛翔といるのは楽しかったから。
でも、このままじゃいけないと思った。
飛翔が貴陽に行くのなんてきっかけ。
だから、離れ離れになったのに。
「俺は悪かったと思ってる」
「あんたみたいな大酒飲みに謝られても、ねぇー」
嬉しいよ。
でも、置いていかれたと思ったのも事実。
置いていったのも真実。
「一度、戻る」
「――…、あたしはちゃんと言葉で言ってほしかったわ」
飛翔はいつでも、口下手だった。
そんな飛翔が好きだったから。
でも、やっぱり言ってほしい。
そう思う時だってあった。
「言わないんなら、あたしが言うわ」
だって、あなたが言いたいことは分かっているもの。
「もう一度、やり直そうぜ」
「あたしを2番に考えてくれるのなら、いつでも」
ちなみに一番はあたしじゃなくていい。
飛翔は、できるだけ国のことを考えていてくれればいい。
古くさいかもしれないけど、そんな飛翔を支えられたいと思うから。
(俺の一番は常にお前だぜ)
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なんか、浮気…?
いや、略奪愛というか、復縁というか
二人とも、お互い好きだったんだけど――…、っていう昼ドラ的なちょっとありがちネタ。
結局2人の考え方にはずれがあるんですけどね。