経緯

「え、うちに?」

先日ひょんなことで知り合い意気投合の末恋人という関係にまで発展した益田龍一の「家に行きたい」という言葉に、春子は深く考えずに頷いた。
春子は割りと几帳面というか神経質な方で、特に部屋を散らかしたりはしていないから、人を招いても差し障りはない。春子は何せ、自分の持っている洋服の数まで把握している。靴下やパンツ、ハンカチなどは風に飛ばされたりだ何だとよく無くなることが多いので、なおさらだ。
そのお陰か、靴下が一足でもどこかに行けば、家の中から外まで探してしまうことがある。ここまで来るともう病気かもしれない。
だが、春子本人は別に気にしていることではない。財布を落としたら必死に探すのと同じだ。
まぁ春子の場合、数が合ってないと嫌というだけで、別にその外のことは意外とルーズだった。

「でも龍一さん、私の家に行っても何も面白いことはないよ?」

「恋人の家に行きたいと思うのは、いけませんかね?」

困ったように笑う益田に、春子は慌てて「そういう意味じゃなくて……」と言い訳した。
行きたいと思ってくれるのは嬉しいが、人を呼べるような大層な家ではない。
春子は家を空襲で無くしてからは、ずっと働いている。しばらくは住み込みで働かせてもらって、ある程度貯まったから職場の近くのボロいアパートを借りている。
春子は贅沢をしようとは思わないからお金は貯まっているし、やろうと思えばもう一段階上のアパートに越すことも可能だった。
それでも春子は概ね現状に満足している。
しかし春子も人並みに乙女のような思考回路を持っている。あんなボロいアパートに連れていって失望されないだろうか、と不安になることもある。

「私のアパート、もう古いの。それでもいい?」

「何だ、そんなことですか。やだなぁ、アパートなんてみんなどこも似たり寄ったりじゃないですか。そんなことで春子さんを嫌いになったりはしませんよう」

益田はやさしい男だ。少なくとも春子はそう思う。
さぁ行きましょうと云う益田に手を握られ、春子は益田を自宅に案内した。





「龍一さん、お茶でいいですか?」

「ええ、ありがとうございます」

にっこりと笑った益田に、春子もにっこりと笑顔を返す。
益田は春子の住んでいるアパートを見ても何も云わなかった。春子にはそれが少し嬉しかった。
思わずにやけそうになるが、今は同じ空間に益田も居るのだと思い、背筋を伸ばした。それでも上がりそうになる口角を抑えるのは難しかったが。
お茶を淹れて戻ると、益田は何故かそわそわしていた。
どうしたのだろう?と首を傾げると、

「春子さんと二人きりなんて、何だか緊張しちゃうなぁ」

「そんな……」

照れて咄嗟に俯いてしまった。それによって空間は沈黙が支配した。
そのゥ……と益田が声をあげた。
それからは済し崩しのようにもう一つの関係を作ってしまった訳である。




後日、洗濯物を畳んでいるときにパンツが一枚足りないことに気付いた。
おそらくあの日に穿いていた……、いや、それかどうかも分からない。最近はどうも危ないし、もしかしたら下着泥棒にでもあったのかもしれない。
そう考えることにして、高がパンツの一枚くらいと忘れることにした。どうせ無くなったものは戻ってこないのだ。





年末に一応は戻ってきましたが!
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行為後、こっそり持ち帰ったmsd。
結局こんな経緯しか思い浮かばなかった……すみません。


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