最近、どうも付けられているような気がする。しかもそれだけではなくて、部屋の細々とした物の配置が若干変わっているような気もする。
最近流行りのストーカーというやつだろうか。
ただ帰宅するだけだというのに、どうしてこんなにも気が重いのか。今日家に帰れば、否応なく事実を知らされる気がしてならない。
「はぁ……」
出来るだけゆっくりと歩いたつもりなのに、いつもとさほど変わらぬ時間に帰宅した。家に向かっていたのだから当然といえば当然だ。どんなに目を背けたくても、それは出来ない。
鍵を開けて把手を引いたが、鍵が掛かっているようで開かなかった。先程鍵を開けたということは、この扉ははじめから開いていたことになる。血の気が引いていくのが分かったが、どうせ鍵を締め忘れたのだと必死に心に言い聞かせた。
もう一度鍵を鍵穴に入れ捻ると、ガチャンという音がして今度こそ扉は開いた。
「なんなのよ一体……」
呟きながら玄関で靴を脱ぐと、居間に電気が灯っていた。
心臓が有り得ないほどに高鳴っていた。ドクドクと耳のそばでなっているんじゃないのかと思うくらい心臓が高鳴りで痛かった。
消し忘れたのだろうか。いや、そんなことはない。電気とガスはちゃんと家を出る前に確認した。
じゃあこれは――。
「あ、春子さん。やっと帰ってきたんですね!」
「!」
電気のついた居間から出てきたのは、今お付き合いしている益田龍一だった。
そういえば彼には合鍵を渡していた。彼が欲しがったからだ。
「すみません。――勝手に家に入ったこと怒ってます?」
「いや、ちょっとびっくりしたけど……」
春子がちょっと困ったように言うと、益田はしおらしくなって謝った。
春子は気にしてないことを告げると、玄関に立ちっぱなしだったことに気付き慌てて中に入った。
「実は今日伺ったのは聞きたいことがありましてですね」
「なに? どうしたのよ、改まって」
「それがですね……」
卓袱台しかないような居間に腰を落ち着けると、益田が真剣な面持ちで話を切り出した。余りの真剣さに春子も思わず真剣な表情をしてしまう。
「これなんですが……」
そういって出されたのはパンツだった。
しかも春子のパンツである。
「――あの、龍一さん。どうしてこんなものを?」
「ほら、僕ぁ探偵助手をやっているでしょう? 先日関わった事件の証拠品の中から出てきたんです」
「でもこれ、私のでしょう? ――どうして私のが」
「悪趣味な犯人だったんです」
益田の話を聞いていて、春子はふと気になった。そういえばこのパンツは益田のズボンのポケットから出て来なかったか?
いくら付き合っているとは言っても、春子は妙齢の女性である。その持ち物を素手で――況してやその持ち物は直接肌を覆うパンツなのだ――持っているのだ。
少し嫌な予感がした。
「で、今日はこれが本当に春子さんの物かを確かめるために来たんです」
「え、ちょっと待って。どうしてこのパンツが私のだって分かったの?」
「ああ、それは僕の家から――いえ、見覚えが――じゃなくて、何となくですかね」
春子の嫌な予感は当たった。
パンツ泥棒が盗んだパンツを盗まれたそうです
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bkm