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進展希望のつづき











絶叫したい気持ちだった。
そんなことがあろうはずもないと分かっているのに、絶対にと断言出来ない自分が嫌だった。
つまり今の関係が嫌なのである。
今のところ伊佐間さんの認識は『よくしてくれるご近所さん』程度の私が、伊佐間さんの私生活に口出しするとか、何様なんだと云われても可笑しくないわけである。
だからといって、おお、女、なんて!
おかずとかお裾分けしてたけど、そういう時は彼女がいるとか好きな人がいるとか云ってなかった。
じゃああの人は何なんだっていう話になり、冒頭の感じに戻り、無限ループ。
調子に、乗ってたのかな。
京極堂さんのお墨付きを貰ったからって、悦んでいたのだろうか。
だってそりゃあ、好きな人と進展の可能性ありと占い師も真っ青な京極堂さんに云われたんだ、悦ばない方がどうかしている。
例の如く伊佐間さんの家にお節介を焼きに来た私は、新聞でも抜く際に郵便受けから落ちたのであろう手紙を拾った。
宛名伊佐間一成様、送り主一柳朱美。
もう泣きたい。
伊佐間さんの家族でないことは明らか――だって、伊佐間さんのお姉さん夫婦は隣に住んでる――だし、伊佐間さんは女友だちいるよーというような風貌の男ではない。
じゃあ誰だ、となる訳で。
京極堂さんに聞いてみようか。
あの人は無駄に色々なことを知っているからなぁ――一柳朱美さんという女性のことも知っているかもしれない。
それに知っていたとしたら、私に進展出来るよなんて京極堂さんは云わないだろうから、京極堂さんが一柳さんを知っているが一柳さんは彼女ではないというのか、京極堂さんは知らないかである。
恐らく京極堂さんは一柳さんについて知っているだろう。
女の勘というか、伊佐間さんは最近色々と巻き込まれ、京極堂さんは担ぎ出された様だし、もしかしたら伊佐間さんは一柳さんとその時に知り合ったのかもしれないし、そうだとしたら京極堂さんも知っているかもしれないという総合的な判断の結果である。
別に好きな人のことは何でも知りたいという質ではないが、少しくらい云ってくれてもいいのではないかと思う辺り、私も同類である。
やはり伊佐間さんにとって私は、良くしてくれる娘さんくらいにしか映っていないのだろうか。
否、もしかしたら迷惑がられているのかもしれない。

「どう思います? 関口さん、雪絵さん」

「僕に聞かれても――なぁ、雪絵」

「タツさんは野暮ですもの。――そうですねぇ、もういっそのこと告白してはどうです? そうすれば伊佐間さんの気持ちが聞けるでしょう?」

本気にしてもらえないのですよ、と雪絵さんに云った。
どれも軽い気持ちで好きだと云ったわけではない。
その時その時、本当に好きだと思ったからそう伝えただけなのだ。
思えば最初から「うん」しか返して貰えなかった。
伊佐間さんの日常会話を見るかぎり、それは普通で、散々悩んで「うん」と云ったことは分かっている。
が、何をどう考えての「うん」なのかが私には分からなかった。
言葉一つなのに、好きというただそれだけなのに、こんなに悩まされるとは。
正しく言葉は呪だな。

「その拾った手紙はどうしたんだ?」

「渡しましたよ伊佐間さんに。まさか私が持っている訳にはいかないでしょう」

「その時に聞けば良かったんじゃないですか? ねぇタツさん」

「そうだよ、冗談粧してでも『その人って彼女ですか』と聞けば良かったんだよ」

「そうですよねぇ、私も失敗したと思ってます。でも、もしただの友人だったりしたらからかうことになってしまうし、それにそれで『うん、そう』とか云われたら私は立ち直れないですよ!」

そもそもそんな、彼女なんですかと聞いて下世話なことを云う女だとか悪いイメージを与えたくないのだ。
だって女の子だもん。
好きな人によく思われたい人が恐らく全てだと思うが、好きな人に嫌われたいと思う人は一握りも居ないだろう。

「まぁ、もう過ぎたことですから、くよくよ悩んでいても仕方ないですけどね」

「春子さん……」

「タツさん、少しは力になってあげたらどうです? 今はお仕事もないんでしょう?」

「ああ。でも正直こういうのは京極堂の方が得意だと思うんだがなぁ」

京極堂さんってそんな特技があったんだなぁ。
キューピッドという柄ではないと思うが、死神のようなあの風貌は恋愛成就に適しているのかもしれない。
何時もツンツンしている癖に、何だかんだで優しいところとか、その持ち前の親切心で恋愛成就を助けるのかもしれない。





「春子さんに朱美さんからの手紙を見られた?」

「見られたというかね、『落ちてましたよ』って届けてくれたの。でも泣きそうな顔をしてたから……」

「封はしてあったんだろう? なら中身は見てないな。宛名と送り主は――恐らく見ているだろうね」

「変な誤解をされたくないんだけど、自分から云うのも――」

「確かに春子さんが誤解なんぞしていない可能性もあるからね。だが、十中八九誤解していると思うぜ」

恋する乙女は暴走するし、思い込みが激しくていけない、と中禅寺は付け足した。

「じゃあ誤解を解いた方がいいね」

「上手く状況を見極めて行かないと、逆に溝が深まるからね。注意した方がいい」

「うん。わかった。ありがとね」

そういって伊佐間は立ち上がり、京極堂を後にした。
まったく世話の焼ける奴らばかりだ、と中禅寺はため息を溢した。






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