片想い且つ両想いの続き
好きで、もう胸がきゅんとする。
いや、きゅうと締め付けられるような、息が出来なくなるようなそんな甘い苦痛が私を襲う。
「伊佐間さん……」
この思いは、やり場のない思いはどうすればいいのだろう。
伊佐間さんは私のことをどう思って居るのだろう。
私と同じように、好きだと思ってくれているのだろうか。
それとも、私を何とも思っていないしつこい女だと思っているのだろうか。
「はぁ……」
大きな溜め息をついた。
今日から伊佐間さんは逗子の方に釣りに行ったらしく、いさま屋に行っても会えないのだ。
所詮自己満足だ。
私が一方的に好きだと云っているだけだし、それに伊佐間さんが応えてくれることなど、初めは期待していなかった。
けれど人間は欲を出す生物で、私は伊佐間さんと仲良くなるたびに見返りを欲しがった。
そんな自分が嫌になる。
「春子さん。此処は本屋だよ。居座るつもりなら何か読みたまえ」
「京極堂さん。お言葉ですが、私は千鶴子さんに会いに来たのであって、本屋に来たのではありません」
「だが生憎千鶴子は出掛けている」
「そうなんですよね! まぁ、本も嫌いではないんですが、此処で扱っているのはどれも無学な私にはちょっとばかし難しいのですよ」
「春子さんは本当に伊佐間君以外のことはどうでもいいんだね」
恋する女の子ですからと云うと、京極堂さんは「女の子という柄かね」と変わらぬ表情で失礼なことを云った。
恋に恋してないだけずっとマシだと思うんだけど。
「まぁ何にせよ、伊佐間さんが居ないとつまらんのですよ」
「君は一体何処の誰なんだ」
京極堂さんちの猫が大きな欠伸をして、尻尾をぱたんと一振りした。
柘榴と云ったか――可愛い。
「猫ー」
「その猫は懐かないんだよ」
「そうなんですか……」
こんなに人懐っこそうな顔をしているのに。
鼾をかいて寝ているが、触っても怒らないだろうか、引っ掛かれたりしないだろうか。
そんなことを思ったが、猫相手である。
多分――大丈夫なはずだ。
決心して腕を伸ばした。
「わ、あ! ふわふわだ」
毛並みにそって撫でると、柘榴は触ったことで起きてしまったのか、目を細めてぱたりと尻尾を一振りした。
柘榴の小さい頭を撫でると、柘榴は顔をくしゃくしゃにして欠伸した。
「可愛い……」
「柘榴が大人しく撫でられるとはね。柘榴には関口大先生すら遊ばれてしまうのになぁ」
「そうなんですか? こんなにも大人しいのに」
柘榴はにゃあだかなぁだか分からない声で鳴いた。
思うに京極堂さんのネーミングセンスも中々である。
「柘榴も伊佐間さんが早く帰ってくるようにお願いしてね」
「猫にそんなこと出来るわけないだろう」
「でも、柘榴は賢そうな猫ですよ?」
ねぇ、と柘榴に語り掛けると、偶然か必然か柘榴は鳴いた。
「――春子さんは伊佐間くんに告白しないのかね」
「さぁ? 告白なら何回もしているんですけどね。もっと小出しにするべきだったんでしょうか」
「伊佐間くんが本気にしない、と?」
私は柘榴を撫でながら頷いた。
可愛いなぁ柘榴。
「本気、なんですけどね」
「つまり伊佐間くんの気持ちが分かれば良いわけだね?」
「あれ、もしかして京極堂さん、協力してくれるんですか?」
私が驚いてそう云うと、京極堂さんは「うちを駆け込み寺にされちゃ堪らないからね。今回だけだ」と相も変わらず親類縁者全員死んだような顔で云った。
なんだかんだ云っても、京極堂さんは優しい。
おまけに嫌味が付いてくるが。
「柘榴ー、長かった恋に進展がありますよ」
「終わってしまう可能性もあるがね」
「……」
出来るなら進展希望
(まぁ、その可能性は限りなく低いがね)
(ん? 何か云いましたか?)
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続いた。
何かあと一二話くらい続きそうです(苦笑)
気分次第なのでどうなるかは分かりませんが
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bkm