くちびる

その男は常連だ。
誰に送るかは知らないが、毎回何かしら買っていく。
花屋には似合わない怪しげな風貌をしたその男は、ある時は花束を買い、またある時は鉢植えを買っていった。
ただ回数は多いが、間が空く。忘れた頃にやってきては似合わない花を買っていくものだから、私の中でその男は常連客としてインプットされてしまった。印象が強烈過ぎたのだ。
そしてその男は、今目の前にいる。

「どーも」

そう言って気軽く店内に入ってきた男に、私は分かるか分からないか程度の会釈をした。それでも男は気付いたようで、「薄は置いているかな?」と云った。

「はい。置いてありますよ」

薄なんて月見くらいしか使えないのにと思いながら、そういえばもうそろそろ十五夜だということに気が付いた。中秋の名月に月見か。

「月見でもなさるんですか?」

「まあね。友人が月見だ! 月見をするぞ、薄を買ってこい! 何て云ってねぇ」

「風流ですね」

「風流かな?」

と云った男に、私は薄の束を差し出した。
簡単に包装しただけなのだが、まぁ薄だしいいか。どうせ飾るときは外してしまうだろうし。
その時の私は、後から思うにどうかしていたのだろう。

「そういえば名前……知りません」

と宣ったのだ。
花屋の店員と客である。名前など知らなくて当然だし、今までの客については知りたいとすら思わなかった。
なのに、何故かこの男だけは。

「僕は司ね。司喜久男。宜しく」

「司さん――ですか」

宜しくねと笑ったその男――司さんは、そろそろ行かなくちゃと云った。

「また来てくださいね」

「春子ちゃんにお願いされちゃったら来るしかないなァ」

「え、どうして名前……」

無音。
その瞬間、私の耳は全ての音を遮断した。
私の全神経は目の前に居る(本当に文字通り)男を見つめることだけに使われていた。

「好きな子の名前くらい知ってるよう」

にっこりと笑って私から離れていった司さんを呆然と眺めた。
状況を理解できない。
好き? 誰を――私を? 誰が――司さんが?
私のことを好きだとはっきり云ったわけではないが、さっきの言葉はそういう意味だろう。
――納得出来るわけない。
だって、






彼が触れた唇が熱い
(名前なんか聞かなきゃよかったわ)
(もっと知りたいと思ってしまうもの)


―――――――――――――――
司さん掴めないぃぃいいぃ!
そもそも登場回数少なすぎだよ。
下調べもせずに書いたからなぁ……益田っぽい
(追記)調べても書けなかった


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