群青

里村先生に会いたい。
我ながらどうして里村先生に惚れたのか、恋とは全くどうして不思議な物だ。
とはいえ、里村先生はお医者様だから、具合が悪いとき以外には会えないしなあ。
惚れたのは――あれか、吊橋効果的な?

「はぁ……」

「どうしたの。溜め息だなんて、幸せ逃げるわよ」

「いや、ちょっとね」

姉だ。
今は実家の手伝いをして、少しずつだが社会人としての経験値を蓄めているのだ。
しかしその間に、里村先生にいい人が出来てしまったらどうしよう。
立派な人だと思う。
だから少しでも近付きたいと思う。

「ねぇ、お母さん。お父さんと出会って結婚して、幸せになるって当時思ってた?」

私は店の奥に居る母親に少し上体を反らして問い掛けた。
母親は「どうしたの、いきなり」と笑いながら奥から出て来た。
いきなりだろうか。
確かにいきなりかもしれないが、年齢的にそろそろ嫁き遅れである。
そういう話が出ても可笑しくないというか、そういう話が出ていない方が可笑しいはずだ。

「いきなりかなぁ」

「いきなりよ。だって、貴女ってば恋人ともろくに長続きしないでしょう? しかも告白されたから付き合ってるって感じだったしねぇ。そんな貴女から結婚なんて単語が出て来るなんて思いもしなかったわよ」

「あーうん。それについては反省してる」

恋人と長続きしなかったのは私が受け身でいた所為だ。
別れるときはいつも「君は俺のことが好きなのか」と聞かれた。
好きも何もなくて、正直に「別に」と答えたらいつも振られてたんだ。
好きじゃないのに付き合う私も悪かったと里村先生に恋をしている今は思っているが、今まで付き合ってきた恋人たちは私に好きになってもらう努力をしなかったじゃないか。
恋とは本当に不思議なものだ。

「私の見立てじゃ――恋してるわね?」

「おお、正解。流石お母さん。やっぱり私のことよく分かってるね」

「当たり前よ。貴女最近ため息ばっかりだったんだから。気付いてなかったの?」

「さっき姉ちゃんに言われた」

そんなにため息ばっかりだっただろうか。
まぁ歳も大分離れているし、望みは薄いかなぁ、なんて思っている。
頑張れ私! 諦めるな私!
なんて、思っても只ただ虚しいだけである。

「好きなら告白しちゃいなさいよ」

「簡単に云ってくれますね、お母さん」

「そう? だって思いを知ってもらうために告白するんでしょ。何も難しいことはないじゃない」

そうも簡単に出来たら苦労はしない。
よく知らないが、相手の歳は下手をしたら私よりもお母さんに近いのだ。
里村先生に恋人が居なかったとして、それで直ぐに付き合えるということにはならない。
もういっそのこと、里村先生とお見合い出来ないかな。
それが一番私の望むものに近い気がする。
独り善がりにすぎないが、私だって女だから好きな人と結婚したいと思うのは当たり前だ。

「ほら、行ってきなさい」

「え、告白に?」

「告白に」

にっこりと笑うお母さんは、流石母親でした。
何かもう貫禄が違うね。
私はすごすごと家兼店を後にし、里村医院へと足を向けた。
当たっても砕けない。
絶対に振り向かせてやる。
そんな思いを振られたときにすぐに取り出せるように心の片隅に置いた。
振られる前提は嫌だけど、そうでもしないと振られたときに本当に砕けてしまいそうだった。






群青の空に輝くのは希望と恋

(里村先生、好きです!)
(うん知ってるよ)
(え、そうなんですか。さ、里村先生は私のことどう思いますか……?)
(さぁね?)
(ひどくないですか)



昼間には見えない星の輝きに託して
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昼間→普段 星→普段は気付かない恋心


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