安らかに
(デリケートな物だと思うので)注意!

戦争の話なのでほんの少しですが、長崎・原爆などが出てきます。
それに伴い、ちょっと独特な死生観(?)が出てきます。
小説は小説(小説と呼ぶのもおこがましいものではありますが)として受けとめられる方はどうぞお進みください。
読んでからの苦情は受け付けません。

それでもよろしい方はどうぞ!














大好き、と云ってくれたあの人はもう居ない。
彼女との思い出は、色褪せないまま胸に秘めていこう。
誰にも渡すものかと思えるほど愛した人だったから、もう誰のものにもなることはなくなって、少しだけ嬉しい。
それは勿論、自分のものにもなることはないということだけれど、それでもよかった。
奪われることの方が、よっぽど辛い。
彼女の命は戦争という暴力に奪われたけれど、今の自分には彼女との思い出があるから、寂しくない。
ただ、恨むこともある。
彼女は死んだのに、彼女の両親は生きていることだ。
彼女は疎開の為、親類の居るという長崎に、向かった。
長崎。それが意味するものは、酷く過酷な運命だ。
だから彼女が死んでよかったのだと思う。
原爆から出るγ線は、細胞を壊しはするが、神経までは壊しにくい。
つまり、皮膚は爛れ、痛みは残る。
そんな過酷な運命を背負わせるよりは、死んでしまったほうが良かったのだ。
自分は医者だが、そのことについては何も出来ないから。
長崎の地で苦しむ間もなく死んでいった彼女へ、東京から祈りを捧げよう。
次は幸せになれるように。
次は共に生きられるように。
長崎の地から、イエスキリストと共に見守っていてくれるように。



「里村が何処に云ったか知ってるか」

木場は居ない里村の居場所を聞きに、京極堂に来た。
京極堂なら知っていると、なぜか思ったからだ。

「里村くんなら長崎に行くと云っていたよ」

「長崎に? 何かあんのか」

「僕はあまり詳しくは知らないが――恋人が長崎で亡くなったそうだよ」

「原爆でか」

京極堂は頷いた。
長崎で死んだということは、恐らくそういうことだ。
木場は里村にそういう人が居たことと、その人が長崎で亡くなっていることに大層驚いた。
まさかあの変態に?
驚かない方がどうかしている。

「そうか、今日は――」

京極堂から少しだけ覗く青空を見て、木場は云った。





R.I.P.
(安らかに眠れ)


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