変態と出会い
益田が残念













心底どうでもいい。
けれど、彼にそんな気持ちは伝わらない。伝わるわけがない。
だって彼は変態だから。人の話も聞かずに暴走している変態だから。

「あのねぇ、益田さん!いい加減にしてくださいと言ってるんです」

「やだなァ、春子さん。益田さんだなんて他人行儀な。名前で呼んでくれていいんですよ」

「心の底から遠慮させてもらうわ」

私はこの変態が苦手だ。
そもそも変態が得意な人はいないと思うが、邪険にする事も出来ないのだ。
だって命の恩人だし……一応。認めたくないし物凄く不本意だけど!

「はぁ……もう疲れた」

「僕ァ、マッサージが得意なんですよ」

「はいはいソウデスカー」

冷たい! と打ちひしがれた益田さんを放って置く事にした。だって家帰りたいし。
しかも冷たいのなんて元からで、変態なのにストーカーなのに優しくしてもらおうというのが間違っている。
女の子は優しくされたいものでしょう? よく知らないけど。

「春子さぁん、待ってくださいよゥ」

「待ってます。充分待ってますけど何か」

「怒った春子さんも可愛いなぁ」

可愛くない、と言おうとした。
そもそも変態に可愛いとか言われても嬉しくないし、如何わしく聞こえる。
この人顔がいいから余計に残念だ。

「全く、私益田さんの美的感覚を疑いますよ」

「僕の愛を受け入れてくれたんですね!」

「受け入れてません。何をどうしたらそういう話になるんですか」

何か構うのも面倒になってきた。
もういいや、益田さんなんか放っておいてさっさと帰ろう。

「あ、ちょっと春子さん!」

「何」

「春子さんは覚えてないかも知れないですけど、僕ァ春子さんに助けられた事があるんですよ」

「知らない。そんなの覚えてない」

そりゃあそうでしょうね、と益田さんは笑った。
いつものへらへらっとした笑い方じゃなくて、もっとこう――なんか凛々しいような?
命を助けてもらった時と同じ笑い方だ。あの時の笑顔から不安を引いたら、こんな感じとか思うくらい、真面目な笑顔。

「僕ァ探偵助手なんですよ。ウチの探偵は普通の探偵とは違うから、普通の探偵は僕がやってるようなものです。浮気調査とか失せ物探しとか」

「で?」

「浮気調査なんて地道なもんですよ。こう、奥さんを尾行して――」

「そんな話が聞きたいんじゃないわよ!」

「ああ、そうでした。その日は丁度雪が降っていて、まあ尾行していたから外で何時間も待ち惚けを食らったんですよ。寒くて寒くて、その時懐炉をくれたんですよ」

そういえば、この間もうすぐ冬が終ると思って懐炉の数を数えたら、1個足りなかったような。
持ち物に執着しないからあんまり気にしてなかったけど。

「あの時春子さんが懐炉をくれなかったら僕ァきっと凍死してましたよ」

「ふーん」

私はこの人を助けていたのか。
じゃあ、命の恩人とかチャラにしてもいいよね、ぜったい。

「で、後日懐炉を返そうと思い立ち制服から学校を調べて、尾行して家を特定しました!」

「それ犯罪だよ!」

もうチャラにしてもお釣りが来るんじゃないかな!
この人真面目に話せないのか。

「でも、懐炉返してもらってないんですけど」

「ああ、アレは――」

珍しく歯切れが悪かった。
逆に気持ち悪い。

「だってアレを返してしまったら、もう春子さんと会えなくなるじゃあないですか」

「気持ち悪いわね」

「まぁ、ぶっちゃけアレを持っていた春子さんを想像してオカズに――」

「ふざけんじゃねぇ――!!」




変態と出会いの懐炉

(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)
(あや、春子さん震えてますよ。僕ァ体温が高いので暖めてあげますよ)
(ひいぃ!触るな!こっちは貞操の危機を感じてるのよ!)


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bkm
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