利害関係
微裏
そして里村が酷い












「里村君の奥さん?」

「ああ。この間、信者の名簿を渡しに行ったときに紹介されてね。若い――女性だったよ」

僕は先日のことを京極堂に告げた。
綺麗な女性だったが、あれはきっと20代前半だろうと思ってしまうくらい若い妻君だった。
いつ頃結婚したのだろうか。挙式はしないで入籍しただけだと云っていた。

「あの里村君だって男だよ。若い娘に一目惚れってこともあるかもしれない」

京極堂はそういった。
あの三度の飯より解剖が好きという男が一目惚れ。何て似合わないんだ。
身体目当てとか?

「そうか。そんなこともあるのかなぁ」

「可能性の話だよ」





「紘市さん。少し休んだら?」

「うん、これが終わったらね」

二人は所謂新婚。蜜月を楽しむ時期にあるのだが、二人はそういう性格ではなかった。
里村の妻――春子は突然里村のもとにやってきた。里村医院の前で倒れていたのだ。
一見淑やかに振る舞っている春子は、実は里村の妻ではなかった。いや、戸籍上はもちろん夫婦であるのだが、二人は利害関係の一致から夫婦を選んだ。
春子は医者だった。それも、戦後のこの時代より遥かに進んだ医療技術を持った時代の医者だった。春子はこの時代の医療技術の水準が低いことを嘆いた。だから自称日本で一番腕のいい監察医という里村に技術の提供を持ち出した。
里村もこれを受け入れたからこそ、今の関係がある。

「紘市さん、医者の不養生よろしく倒れてしまいますよ」

「あはは、それは困るなぁ」

里村は仕事用のデスクから立ち上がると、春子に歩み寄った。

「医大に行く気はないの」

「くどいですね。私より紘市さんの方が腕は良いですから。それに、今更です」

春子は医者だったのだ。それも今より進んだ時代の。
きっと、この時代では間違ったことを教えられる。それは春子にとって許せることではなかった。
だが、里村は違う。里村は解剖好きという一点を除けば、大変人望のある人物である。
どこの誰か分からない春子が云うより、里村に云ってもらったほうが都合がいい。

「責任を全部僕に押し付けるんだね」

里村は笑った。
春子にはこの笑みが気味の悪いものに見えた。

「それは申し訳ないと思っています。でも、私は私の知識に自信を持っているので」

「知ってる」

紘市さん、と春子は云った。
里村はいい人だ。だが、やはり変態だ。

「僕は君を気に入っているんだよね」

「性的関係しか、ないですよね?」

里村が云いだしたのだ。
知識の提供だけなら、夫婦である必要はない。
里村は行く宛てのない春子を拾った。一つ屋根の下で男女が明確な関係なく暮らすのは良くない、と里村は云った。春子は衣食住が保証されるなら、と頷いたのだ。拾ってくれると云った里村に迷惑が掛かるのも避けたかった。

「春子。何か勘違いしてない?」

「え、なにがですか?」

里村は寝室で、春子の色白で吸い付くように柔らかい肌を楽しむ。鬱血痕をつけ、自身で嬲る。
春子は里村の熱に浮かされた頭を、一生懸命働かせる。だが、里村には春子に考え事をさせる余裕も与えたくないらしく、さらに勢い良く穿った。

「紘市、さんっ」

「愛してるよ、ちゃんとね。身体だけじゃない。春子が好きだよ」

里村はそういって、唸った。
春子の体がビクビクと痙攣する。首を仰け反らせて達した。

「紘市さん、紘市さんっ」

春子は里村にしがみついた。
豊かな胸が、里村の胸板に潰された。

「乱れる君も好きだけどね」

「わ、私はっ」

「僕のこと、好きでしょ。知ってるよ。毎日起きた時にキスしてくれるのも」

里村は春子にキスをした。
春子の身体は里村の欲で塗れている。春子は里村に愛されて、意識を失った。

「逃さない」




愛と欲の利害関係

(こ、ここ紘市さんっ、私……)
(ん? 何?)
(に、妊娠したかもしれないの!)
(そっか。じゃあ暫くはお預けかぁ)


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