何処に


がたがたと風が戸を叩く音がする。
何だか、とても騒々する。

「何かあったのかしら……」

不安になる。昔からこういうことがよくあったが、それは必ず良くないことの前触れだった。
最近、伊佐間さんに会っていない。何かあったのだろうか。伊佐間さんの家に何度か行ったけど、いないようだった。
どうしているんだろう。伊佐間さんは大丈夫だろうか。

「伊佐間さん…」

「春子、ご飯よ」

母さんが呼んだ。もうそんな時間か。
ああ、頭が痛くなってきた。心配だ。出来ることなら今すぐに会いに行きたいのに。
階段をふらふらになって下りる。がんがんとずきずきと、頭に響くように痛い。

「ちょっと春子、大丈夫?」

「う、うん…」

会いたい逢いたいあいたい。伊佐間さん、会いたいです。

「春子、医者に見てもらったほうがいいんじゃない?」

「大丈夫。ちょっと外で涼んでくるね」

出かけよう。とりあえず、伊佐間さんの家まで行って、もし居なかったら中禅寺さんのところに行こう。あの人なら伊佐間さんみたいにどこにいるのか分からない、連絡つかない、なんてことはないだろうから。
運が良ければ伊佐間さんと会えるかもしれない。

「伊佐間さん」

伊佐間さん。
どこにいるんですか。
今、無事なんですか。
ああ、どうしよう。最悪の場合、もう会えないかもしれない。空襲の時もそうだった。あの夜も胸が騒々して、母親に眠れないと泣き付いた。そして火の中を駆け回り近所の小母さんも、友達も、いなくなったのだ。あの時のように、もう二度と会えなくなるかも、と思うと、気が狂いそうだ。
嫌な記憶が次々とよみがえる。蛋白質の焦げる匂いまでしてきそうだった。

「伊佐間さん、どうか」

どうか無事でいてください。
そして、また私に会いにきてください。
伊佐間さんの物音ひとつしない――魚の跳ねる音が数度したが――家の前で、崩れてしまった。やっぱりいない。
もう、中禅寺さんのところに行くしかないか――と、最後の力を振り絞り、電車に乗った。

うとうと、はらはら
うとうと、ざわざわ

疲れて眠いが、緊張感から眠れない。
どうしているんだろう、無事だろうか。そう考える度に、最悪の考えに至って冷や汗が流れる。

『中野ー、中野ー』

下りなきゃ、と足に力を入れる。ご飯を食べていないから、力が入らない。
それでも、なんとか電車を下りた。

ざわざわ

ああ、嫌な予感が増している。変なことに巻き込まれているに違いない。

「春子君じゃあないか」

「ちゅう、ぜんじさん――」

幽霊のように立っていた中禅寺さんの姿を見て、何故だか私は安心した。
この人が行けば、もう大丈夫。
そういう確信があった。




どこにいるの?

(伊佐間さん!無事だったんですね…!!)
(うん、心配かけちゃったみたいだね)
(もう、置いていかないでください……こんな思いをするのは嫌なんです)
(ごめんね、春子ちゃん)


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