温もり

ああ、泣いている。
えーんえーん、という子供の泣き声が響いて聞こえた。

「お姉さん、何しているの」

「待っているの」

「――誰を?」

笑った。
響いている。子供の泣き声が、響いている中に少女の声が響いた。私はそれに、何の疑問もなく返事をしている。

「誰を、待っているのかなんて――」

分からない。
否、違う。そんなことはない。
知っている。待っているのは――。

「探偵よ」

「探偵? その人は来てくれるの?」

少女の声が響いている。
お願い、かき乱さないで。
少女の声は、ひどく私を、私の心をかき乱した。

「榎木津さん…!!」

「呼んでもこないよ」

濡れた声が響いた。
少女の、声。――泣いてる?
何で、どうして、泣いてるの。

「呼んでも、こないよ」

ああ、悲しい気持ちになる。
それはきっと後ろで響いている子供の泣き声と、少女の涙声の所為だ。この不協和音が、悲しくさせるのだ。

「榎木津さん…!!」






目が覚めた。
上体を起こすと、手ぬぐいが落ちた。手ぬぐい――そうだ、私は風邪で寝込んだのだ。覚えてはいないけど、悲しい夢を見たのも風邪のせいだろう。
誰かいないのか、と寝台から出ると、力が入らず床に座り込んでしまった。どうやら何も食べていなかったらしい。

「おお! 起きたのか!」

「…榎木津さん?」

声が擦れていた。
どうしてここに榎木津さんがいるのだろう。確か両親がいたはずだが、いないのだろうか。

「遊びにきたら寝込んでいると言われた! 神に心配されたのだ。ありがたく思え!」

榎木津さんはにこにこと笑っている。
いつもと変わらないその笑みに、私も思わず笑ってしまった。悲しい夢のことなんかどうでもよかった。
夢は所詮、夢だから。

「ほら、僕はここにいるじゃないか!」

「それも、そうですね」

榎木津さんは私の両脇に手をいれ、私を抱き上げると寝台におろした。





温もり

(少し眠るがいい!)
(はい。――あの、榎木津さん)
(ん?)
(傍に、いてくださいね)



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bkm
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