本性

「伊佐間さんって勇ましくないですよね」

「いさまといさましいをかけて?」

「ええ。むしろひょろいですよね」

勇ましい、というと木場さんのような人を思い出す。
伊佐間さんは全然勇ましくないし、強いというイメージもない。

「やっぱり、木場さんかなぁ」

「何が?」

「んー、何でもないですよ」

伊佐間さんに云うようなことではない。
としたら、やっぱり木場さんは刑事なのだし、木場さんが適任なのかもしれないな。
でも、木場さんはたしか、捜査一課だったと思う。
そうすると、殺人担当だろうし、こんな些細なことで迷惑をかけるのは、非常に心苦しい。

「どうしたの?」

「あー、本当に何でもないんですよ?」

「どうしたの?」

――意外と伊佐間さんって勇ましいかもしれない。
だからといって伊佐間さんに頼めるようなことじゃないし……。
第一、伊佐間さんが出ても、解決はしないだろう。

「やっぱり、木場さんに頼むんで!」

「うん。だから、どうしたの?」

伊佐間さんって、案外引かないのね。
でも、云えるようなことじゃないしなぁ。
否、大声じゃなければ云えるかも?
云わなきゃいつまでも聞いてきそうだしな。
云うしかないか…。

「じゃあ、内緒話で!」

伊佐間さんは頷いた。
どうやら納得してくれたらしい。
伊佐間さんの耳に小声で事情を話した。

「――何で早く云わなかったの」

「云えるようなことじゃないですもの」

それに、そこまで被害があるわけじゃない。
私がそういうと、伊佐間さんが少し眉を寄せた。
ああ、やっぱり云うんじゃなかった。
心配かけたくないから云わなかったのに。

「僕に内緒で木場の旦那に会いにいくつもりだったの?」

「内緒じゃないですよ。ちゃんと木場さんに頼まなきゃ、って云いましたもの」

「きみは僕の彼女でしょ?」

そこを引き合いに出されてしまえば、もう反論できない。
そもそも、別に木場さんとはそういう仲じゃないのだから、いいではないか。

「それに、伊佐間さんは解決できるんですか?」

「僕と付き合っているので、って本人に云えばいいんじゃない?」

なんなら僕がそういってあげるよ、と言った伊佐間さんは、勇ましかった。






それから、数日後。
私と伊佐間さんの前には、一人の男がいた。
この数週間、私を悩ませていた原因だ。

「ねぇ、ちょっとあっち向いてて」

そう云われたので、私は後ろを向いた。
ストーカー男の顔なんて、そうそう見たいものでもないし。

「うん。あのね――…」

伊佐間さんが男に何か云っているのを、背中で感じた。
何を云っているんだろう?

その次の瞬間――。

「ぎゃあぁああぁぁああああぁぁぁああああぁ!」

男が叫びだした。
私は後ろを向いていたのだが、なぜか後ろに振り向くのが恐かった。
しかし、そのせいで更に恐くなったのは言うまでもない。

「―――――……、もう被害に会うこともないと思うよ」

そう言ってにっこりと笑った伊佐間さんに、私は固まってしまった。
何でそんなにスッキリしているんですか!

そう云おうとしたら、キスをされた。
貪るような、深いキスだった。

「んっ、ふあぁッ、んんっ……、ぷはぁっ!な、何するんですか!」

「うん、キス」

「そういうことじゃなくてっ」

何でこんな往来で…っ!
文句を云おうとしたら、所謂お姫さま抱っこというやつをされた。
じたばたと暴れても、びくともしない。
やっぱり、伊佐間さんも男なんだ…。





本性は

(伊佐間さんってやっぱり男なんですね)
(うん。じゃあしようか)
(ええ!ちょっと待ってくださいよ!)


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