中禅寺さんは変わった人だ。
「うるさいよ」
「あれ、千鶴子さんは?」
半ば、千鶴子さんの姿を見にやってきているようなものだ。
だから千鶴子さんを見れないと、ここにきた意味がない。
千鶴子さんは私の癒しだから。
「何度も云うけどね、千鶴子は僕の妻だ。きみの妻じゃあない」
「中禅寺さんって変り者ですね。女と女が結婚出来るわけないじゃないですか。千鶴子さんが石地蔵というのも分かる気がします」
「そういうことを云ってるんじゃないよ」
はぁ、と大袈裟にため息を吐く中禅寺さん。
私は何でこの男と話しているのだろうか。
私は癒しを求めて千鶴子さんに会いにきただけなのに。
「あーあ、千鶴子さん居ないんだったら来るんじゃなかった」
「こちらだって迷惑だよ」
「しょうがないから雪絵さんのところにでも行くか――」
そしたら、関口さんと雪絵さんを誘ってお茶でもしよう。
雪絵さんがいないことは会っても、関口さんが居ないことはまずないだろう。
雪絵さんがいなかったら、関口さんとお茶すればいいのだ。
「関口くんと出かけるのかね」
「ええ。何だか可愛らしいじゃないですか、関口さんって」
人間らしくて、大好きだ。
反対に、この中禅寺という男は、ひたすら嫌味と講釈しか話さない人形なんじゃないかとさえ思う。
だから、中禅寺さんは少しだけ苦手だ。
「とりあえず、茶でも入れよう」
「お気遣いなく。もう帰りますので」
私がそう云うと、中禅寺さんはただ、そうか、とだけ答えて本を読み始めてしまった。
「中禅寺さん」
「何かね。関口くんを誘うんだったら早くしたほうがいい。関口くんは馬鹿だから、連れ出すのに時間がかかるだろうからね」
「そうします。中禅寺さん、私――」
つい、と中禅寺さんは本から眼を離し、私を見た。
僅かに、瞳が揺れた気がした。
「私――、千鶴子さん居ないんだったら来る気ないんで、今度から始めに云ってくださいね」
中禅寺さんは何故か眼を大きく見開いて、俯いてしまった。
肩が少し震えている。
笑っているんだろうか。
そんな面白いことは云ってないんだけどな。
「さっさと行ったらどうだい?」
中禅寺さんは、そのまま再び本に眼を落とした。
勘違い
(期待した僕が馬鹿だった)
(あ、千鶴子さん!一緒にお茶でもしませんか?)
(あら、楽しそうね。あなたも一緒に……あら、どうしたのかしらね?)
(さあ?千鶴子さんが帰ってきたからでしょうか?)
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