嗚呼、

きっと、誰もがこんな感じだと思う。ボーッとするわ、体は怠いわ、そのくせ頭も痛い。これは所謂風邪だ。
しかし、私は今までに風邪を引いたことがない。健康優良児だったのだ。私としたことが、風邪を引くなんて――と思ってみたが、最近は忙しくろくに睡眠も取っていなかった。
そしてついに過労と貧血で倒れたのだ。いくら今までに風邪を引いたことがなかったとはいえ、さすがに無理をしすぎたらしい。そのままずるずると風邪を引いてしまった。
しかも間の悪いことに、伊佐間さんの目の前で倒れてしまったのだ。伊佐間さんは自身がマラリアにかかって以来、風邪には物凄く敏感だ。私は彼の目の前で倒れてしまったがために、彼の家に半ば軟禁されているのだ。
有り難いのだが、一向に外に出してもらえず、身の回りのことは全部伊佐間さんがやってくれる。勿論、用を足すときは一人で行くのだが、そのまま涼んでいたりすると、伊佐間さんに捕まって連れ戻される。
もう大丈夫だ、と云っても、中々信用してくれない。いい加減、家に帰りたい。
そもそも、私を伊佐間さんの家で療養させる意味はないように思う。伊佐間さんにはデメリットばっかりで、メリットなど一つもない。伊佐間さんにも迷惑だと思うのだ。伊佐間さんに甘えてなどいられない。
私も、もう成人した立派な大人だし、幾ら風邪の時は人恋しくなるとはいえ、これ以上伊佐間さんの好意に甘えれば、伊佐間さんの仕事にだって支障が出るだろう。
私はそう伊佐間さんに云うことにした。


「伊佐間さん、少しお話いいですか?」

「うん。でも、その前に僕の話も聞いてもらえる?」

なんだろう、伊佐間さんの話って。もしかして、出てけとか、そういう話かな。そうだとしたら、丁度いい。
そう思っていたら、

「僕の家で、一緒に暮らそうよ」

思考回路はショート寸前、とはこのことだろう、と身を持って体験した。
伊佐間さんは、予測不可能な事をしてくれる。しかし、それは今回に限っては嬉しいものだった。

「いいんですか?」

「うん」

「大好きな釣りに行くのに、私一人残していくことになるんですよ」

「その時は君も一緒に行こうよ」

旅行くらいにはなると思うよ、そう伊佐間さんは云った。
どうしよう、どうしよう。嬉しすぎる。
どうやら、無理をしてでも伊佐間さんのところに来た甲斐があったようだ。

「いいんですか、私で」

「うん」





嗚呼、幸せ

(これにサインして)
(? なんですか、これ)
(婚姻届)
(ちょっと早すぎやしませんか)


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